もはや生ける伝説だ。
9月13日、Jリーグ最高齢記録を更新する71歳でのJクラブ監督就任を果たした栃木SC・松本育夫監督である。
J2第33節のコンサドーレ札幌戦で現場復帰を果たすと、後半アディショナルタイムの劇的弾で見事初陣を勝利で飾った。
続く第34節ザスパクサツ群馬戦でも、またも後半アディショナルタイムに相手がゴール前ドフリーのシュートをポストに弾くなど、今季ここまでの栃木の苦しい戦いぶりからは考えられないような奇跡的な勝ち方で連勝をもぎとってしまったのだ。
現場復帰3戦目となった第35節松本山雅戦では惜しくもドロー決着となったが、試合後、松本監督に「よく鍛えられたいいチームだな」と言われた元五輪代表監督の敵将・反町康治監督が「正直にいってうれしかったですね」と脱帽。Jリーグ最高齢監督らしい堂々とした風格で知将まで飲み込んでしまったのだ。
実は、この試合でも伝説は生まれている。試合後の記者会見での出来事だ。
記者との質疑応答を終えた松本監督は、おもむろに席を立つと、会見場に入ってきたドアとは反対方向へと歩き出した。通常、会見場に入ってきた監督たちは入ってきたドアから出ていくのが自然であり常識なのである。
しかし、松本監督に常識は通用しない。松本監督が向かった先にはピッチしかなかった。窓ガラスを空けて、再びピッチレベルに降り立った松本監督は、その場に所在なさげにたたずむほかなかった。会見場にいた誰もが虚を突かれるまさかの行動。誰でも目が点となり、その背中をただただ追うことしかできなかった。
かつて長野の地球環境高校では落ちこぼれの生徒をとりまとめ、創部わずか7カ月で冬の高校サッカー選手権に出場させた偉業を持つ松本監督。
かつて鳥栖では、当時のいわく付きのクラブ社長と喧嘩をし、チームの指揮官であるにもかかわらずクラブ事務所を出入り禁止にされた松本監督。それでも、鳥栖の礎を築いた人物だと鳥栖サポーターの支持は今でも高い。
今季から出向いた栃木は地元。50年ぶりに凱旋帰郷を果たした松本監督は「人生最後のご奉公」と堅い決意を口にする。
栃木はいま、債務超過に苦しむ瀕死の状態。
観客動員も4,000人をやっと越えるほどで、今後地域的な盛り上がりを換気するには起爆剤となるJ1昇格がほしいところだ。残り7試合で昇格プレーオフ圏内とは8差。もう一つも負けられない状況だが、ここで次節10月6日、ホームのグリーンスタジアムに迎え撃つは西の横綱・ガンバ大阪。すでにチケットはソールドアウト。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた男、豪腕・松本育夫。
伝説、再びなるか――。
【了】
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