ベテランの真価
Jリーグが開幕する前、日本リーグは日産自動車と読売クラブが二大勢力だった。両者はライバルで、いつも激しく競り合っていた。
「おっさん自動車」
読売の若手選手が冗談で話したのが新聞記事になり、ベテランの多かった日産が奮起したエピソードが懐かしい。
今季のJ1で優勝を争う横浜F・マリノスも先発メンバーの平均年齢が30歳を超えている。ところが“おっさん”たちの走ること走ること。中村俊輔が35歳、マルキーニョスは37歳、ドゥトラに至っては40歳! サッカーに年齢は関係ないとはよく言われるが、まさしくそのとおりのチームである。
1トップのマルキーニョス、トップ下の中村俊輔、この2人の守備が後方の連動を生んでいる。ベテラン2人の運動量を“生かした”守備戦術になっているのだ。
樋口靖洋監督にとっても、中村の運動量と守備力は「発見」だったという。その発見があったから、トップ下に据える決断につながった。
ただ、樋口監督の理想はかつてのリバプールのように守り、アーセナルのように攻めることだそうだ。攻守にアクションを要求し、常に主体的にプレーする。そのサッカー観に、中村が適応した結果なのかもしれない。
――監督としてのモットー、心がけていることは何ですか。
樋口 決断すること。信念を持ってブレない姿勢を貫くことです。
――ご自身の監督としてのストロングポイントとウイークポイントは何だと思いますか。
樋口 強みは4歳からJのトップの年齢までを年間通して指導した経験があることです。弱点のほうは、これがウイークかどうかはわかりませんが、プレーヤーとして高いレベルで成功した経験がないことです。ワールドカップでプレーしたこともないですしね。自分に見えていない世界があると自覚したうえで指導することになります。
――指導した年齢層の幅がとても広い。
樋口 いろいろな視点から人を見ることは、年齢にかかわらず重要だと思います。決めつけずに、いろいろな角度から見てアプローチを変えていくことを学びました。
――どの年齢層が難しいのですか。
樋口 それぞれ面白さ難しさがありますが、10歳の子供たちは反応が早かったですね。投げかける言葉、与える刺激に対しての反応がパンと返ってくる。3対3で4つのゴールを使ったゲームを毎回続けたんですよ。ルールだけ説明して、あとは何も言わない。どう変化するのか実験的にやってみたんです。
すると、週2回の練習なのですが3ヶ月ぐらいで変化が出てきたんです。ボールコントロールの仕方が変わったり、2対1の数的優位を作ろうとしたり。その反応が毎回違っていてとても面白かったですね。