F・マリノス改革の柱
社長代行としてF・マリノスに着任したのは09年7月。以降、成績不振と業績悪化に苦しむクラブに様々な改革を施していった。その根幹にあったのは、やはり「ゴーン流」だ。
F・マリノスは構造的に赤字の傾向が続いていたので、日産からは『赤字解消とF・マリノスの再生にチャレンジしてくれ』と言われていた。つまり、この10年間くらい日産でやってきた経験を活かせば、赤字クラブの再生はできるだろうっていう期待値があって来たわけですよ。僕も外から見ていて、やれることはいっぱいありそうだなと感じていました。
例えば、最初にクラブに取り入れたものにクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)というコンセプトがある。CFTは、ある全社的な課題に対し、最も関係が深い部署からリーダーを選んで、次にその課題に関連するすべての部署からメンバーを選びチームを編成する。たとえば、昔の日産の発想だったら組織の問題を考えるのは人事の仕事ですから、人事の人間だけで組織改革を考えていた。もちろん関係部署にヒアリングはするけど、最後に案を作るのは人事の人間。ここでどういうことが起きるかというと、人事にとっては理想的であるけれど、生産部門や研究設計部門など他部門から見ると、なんじゃこりゃというような組織が出来上がってしまう。
別の例を挙げると、部類や原材料を調達してくる購買部門というのがあります。彼らは部品メーカーさんと交渉をしていかにコストを下げるか考えてるんだけど、やり方を間違えると部品の品質が悪くなる。そうすると迷惑を被るのは他の部門だったりするわけです。だから予め、品質部門や生産部門、研究設計部門の人たち全員を入れた上で、どうやって部品のコストを合理的に下げるか、多面的に考えた方が良い答えが出る。このCFTというコンセプトが倒産の危機に瀕していた日産を変えてきた。逆に言うと日産が99年ぐらいに潰れかけた最大の原因は、各部門の壁が厚過ぎたからなんです。
この考え方を、F・マリノスに来た時にまず最初にやった。たとえば、チケットを売る部署の人たちは自分たちだけの視点でどうやってチケットを売るかを考えるわけです。一方、スクールをやってる人はどうやって生徒を増やすかばかりを考えている。しかもそんなに大きな会社ではないのに、部署間のコミュニケーションが余りに円滑ではなかった。でも、スクールのコーチにもチケットを売るアイデアがあるかもしれないし、逆のケースもある。要は社員の持っている色々なアイデアを効果的に結集する場を作るという発想がCFTだったんですよ。
嘉悦がCFTと同時にクラブに持ち込んだマーケティングの概念に「パーチェス・ファネル」というものがある。消費者が購入を決めるまでの意識の遷移を図式化したもので、イメージは逆ピラミッドだ。購買の端緒となる「認知」が最上部で、そこから下方向に「理解」→「好意」→「購入意向」→「購入」→「再購入(リピート)」と続いていく。段階的に数は減るため、入口の「認知」が小さければ、最終的に商品を購入し、リピーターになる可能性も低い。嘉悦はこの逆ピラミッドを「認知・理解・好意」(ホームタウン活動)、「購入意向・購入」(プロモーション活動)、「再購入」(ホスピタリティの向上)の3ブロックに分け、それぞれにCFTを立ち上げた。