過去には放出されかけたベイル
トッテナム・ホットスパー離脱騒ぎの真っ只中で、今夏を過ごしたギャレス・ベイル。その間に、イングランドの世論は、「残留が賢明」から「売却が当然」へと変化した。
筆者の見方も同様に変わった。昨季末の時点では、チームはもちろん、選手自身にも、残留によるメリットが想定できた。監督1年目だったアンドレ・ビラス・ボアスは、最終的にベイル中心のチームを作り、プレミアリーグではクラブ史上最高の72ポイントを獲得した。
リーグ戦で21得点を上げた一大戦力は、指揮官との関係も極めて良好と見受けられた。1ポイント差の5位でCL出場権を逃したが、スピード、パワー、ボールタッチと、天賦の才に恵まれた若者は、馬の合う若手監督の下で戦術意識を磨いて損はないと考えるのではないかと思われた。
しかし、本人の意思という残留の前提は7月末に崩れた。ベイルが、意中のクラブへの移籍をビラス・ボアスに訴えたと伝えられたのだ。当人の決断は、看板選手を失うトッテナムのサポーターでさえ、内心では理解できたに違いない。
世界最高峰と言われるCLの舞台に、昨季はプレミア最高の選手がいなかった事実は、誰もが認めるところ。そのベイルが、CLへの切符を得る移籍先は、ビッグクラブ中のビッグクラブ、レアル・マドリーなのだ。
実際に誘いを受け始めれば、2度目のチャンスはないかもしれないという意識も働いただろう。まだ24歳だが、4シーズン前の2010年、前監督のハリー・レドナップに、故障の多い戦力外として5億円弱での放出を検討されたのは、他ならぬベイルだ。
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