“古き良きイングランド”を体現するフットボーラー
「最もイングランド人らしい、フットボーラーは誰か?」
現地のメディア関係者の間で、よく論じられるテーマだ。プレミアに流れ込む資金と、ショービズ的なスポットライトの当たり方を基準にすれば、ベッカムの右に出る者はいない。見た目と技で職人的なMFを選ぶなら、スコールズやマーフィー、労働者階級のヒーローとしてはシアラー、きな臭いストリートのイメージを漂わせるルーニーもいる。ジェントルマン然としたイメージ、あるいは育ちの良さを感じさせる選手が好きな人は、リネカーやランパードの名前を挙げるかもしれない。
しかし多くの人が真っ先に連想するのは、ジェラードではないか。瀟洒な「ヘアサロン」などではなく、「バーバー(床屋)」という単語がしっくりくる髪型、リバプール訛りが残る話し方、試合が思ったような展開にならない時に、神経質そうに目を細めたり、爪を噛んだりする癖も親近感を抱かせる。
しかし、ジェラードが最も「イングランドらしさ」を感じさせるのはプレースタイルだ。典型的なボックス・トゥ・ボックス型のMFで、ミドルシュートは大の得意。手元に映像がある人は、2006年のFAカップ決勝、ウェストハム戦を見直してほしい。リバプールの背番号「8」は、胡桃を叩き潰すハンマーの如き勢いでシュートを放ち、2度もゴールを決めている。特に2点目は、ロスタイムに3-3の同点に追いつく起死回生の一撃となった。
とはいえジェラードにも、下積みの時代は当然のようにあった。彼は自身の成長を、次のように振り返る。
「今の俺がやっているプレーは、プロになったばかりの頃とまるで違う。最初は他の連中と同じように、サイドの選手として試合に出始めたんだ。そしてクロスの上げ方とか、ボックスの中にフリーキックを入れていく方法を身につけていった。真ん中でプレーするようになってからは、ガリー・マカリスターやディートマー・ハマンに後ろを固めてもらいながら、もっと自由に攻撃させてもらえるようになった。
さらにラファ(ベニテス)が来た後は、フェルナンド(トーレス)の背後で使ってもらったんだけど、あのポジションでプレーするのは本当に楽しかったな。俺は自分でゴールを決めることも、チャンスを作るのも好きだから。トップ下だと、どっちもできるんだ」