丸くなったアウトゥオリ
06年、鹿島を率いたパウロ・アウトゥオリが再びカシマスタジアムに戻って来た。つねに眉間にしわが寄るところに変わり無かったが、若干目尻が下がった表情は、かつてよりも柔和な印象を与える。息が詰まるような緊張感だった記者会見も、他の監督と特段差がないものになっていた。
「だいぶ丸くなった」
彼のことをよく知る鹿島のスタッフが振り返る。低迷するサンパウロFCの監督をシーズン途中で引き継いだものの成績は好転せず、ブラジル全国選手権で20位中18位という降格圏を脱していない。胃がキリキリする状況にいながらも監督としての威厳と落ち着きを保っていたところは、これまで積んできた経験の豊かさを感じさせた。
鹿島にいるときは“瞬間湯沸かし器”と呼ばれることもあった。試合中に激高してベンチを殴り、翌日から手に包帯を巻いてくることもあった。しかし、年齢や実績に関係なく、スパッと選手を入れ替えられるのもパウロ・アウトゥオリの特長である。
鹿島時代には、高卒ルーキーだった内田篤人を開幕からスタメンで使い続けた。いまをときめく日本代表右SBの礎は、アウトゥオリの功績と言っても過言ではないだろう。
スルガ銀行チャンピオンシップでも、18歳のルーカス・エヴァンゲリスタが軽いプレーでパスミスをしたことに質問が飛ぶと、これをやんわりと受け流した。
「ちょっとオシャレなパスを狙ってミスをしてチームの流れを止めたことは起きてはならないことです。ただ、彼の良いところもあります。ベンフィカ戦でも途中から入って良いプレーをしました。一方的にミスを責めて公の場所で叱るのではなく、彼を諭しながらしかるべきタイミングで指導していこうと思います」