過度の飲酒が当たり前だったイングランド
〈ヴェンゲル・コード〉の核心、つまり、アーセン・ヴェンゲルが名門アーセナルの監督となることを通して、イングリッシュフットボール界に導入提示した最もシンボリックな“法則”といえば、何といっても「飲酒習慣の打破もしくは根絶」だ。
要するに、プロのアスリートたる者、「体調管理に最善を尽くす」のは職業倫理どころか義務であり、飲酒はまず何よりも戒めなければならない“悪弊”だということである。
今の時代なら「そんなこと当たり前じゃないか」といわれそうだが、ほんの十数年前までのプレミアリーグ界隈ではまるで事情が違っていた。それも“超”のつくレベルで。
ヴェンゲルがやってきた頃のアーセナルを代表する顔役の二人、トニー・アダムズとポール・マーソンはトップクラスの酒豪として名を馳せていたし(しばらくしてマーソンはアルコール中毒でリハビリ生活に入ったほどだ)、ユナイテッドのロイ・キーンは「少々の怪我なんかギネスの2、3杯でも飲めばすぐ治るさ」とうそぶいていたことで有名だった。
プレミア創設直前までのユナイテッド、およびイングランド代表のキャプテンとして、全国レベルのスーパーアイドルだったブライアン・ロブソンにいたっては「一晩飲み明かしても、翌日の練習ですぐに抜ける。酒盛りはプレーヤー間のコミュニケーションを高めるために欠かせない日常的イベントなんだからね」と豪語していたものだった。
【次ページ】アスリートが練習を見せるのは恥?