ベニテスが実践しているイタリア的ではない考え方
私たちのような監督に限らず、サッカーの戦術分析に携わる者であればおそらく、そのすべての人が【図1】に示す流れ(循環)を基に試合を見るのではないでしょうか。便宜上、「攻撃システム」から順に流れを追えば、その攻撃が完結されず敵にボールを奪われると瞬時に「ネガティブ・トランジション」の局面に入り、それは言うまでもなく「守備システム」の精度が厳しく問われることを意味し、再びボールを奪い返せば即座に「ポジティブ・トランジション」へ移行する。この繰り返しがサッカーという競技の基本。そう言えるはずです。
したがって、我々監督は常に、この循環を構成する1つひとつの要素をいかにして確かなものにしていくか、より効率的・効果的なものとしていくか、また、いかにして「守備システム」の無駄をなくし、「攻撃システム」の多様性を確保するかという点に研究を重ねています。
もちろん、1つの局面から次の局面への移行をいかに円滑に行えるかという点にも、日々のトレーニングを重ねる上で常に細心の注意を払っています。
とはいえ、以上のことは何ら新しいことではありません。もはや世界中の指導者にとって常識と言えるのでしょう。にもかかわらず、ではなぜ私が冒頭で敢えてその常識(基本中の基本)に触れたかといえば、今回の分析対象であるナポリの監督ラファ・ベニテスが、件の4段階(「攻撃システム」→「ネガティブ・トランジション」→「守備システム」→「ポジティブ・トランジション」)の1つひとつに、いわゆる“イタリア的”ではない類の考え方をいくつか盛り込んでいるからです。
そして、だからこそ監督ベニテスは、率いるナポリが国内リーグを制することはできなくとも、ここイタリアにあって実に多くの監督、ユース年代の指導者たちから高い評価を受けている。より正確に言えば、多くの指導者たちにとって最も興味深い分析の対象、その1人とされているのです。
では、その“イタリア的”ではない類の考え方を順に見ていきたいと思います。