サッカー 最新ニュース
サッカー本大賞2025受賞者のコメント
【写真:武馬怜子】
12回目を迎えたカンゼン主催の「サッカー本大賞2025」優秀作品7作品の受賞者よりコメントが届いたので一挙公開!
大賞
『ひとでなし』(文藝春秋)
星野智幸(著)
憧れのサッカー本大賞に選んでいただいて、多幸の渦に呑み込まれています。いきなり代表選手に選ばれて、しかも優勝してしまったかのような心持ちです。
津村記久子さんの傑作『ディス・イズ・ザ・デイ』が大賞に選ばれたときに、小説も対象になるのかと感銘を受けて以来、憧れ続けてきたにもかかわらず、『ひとでなし』が対象作品になるとは思いもしなくて、まさかの優秀作品選出、さらには大賞という展開に、これは架空日記内の出来事なのではないか、と疑うほどです。
けれども、受賞してみると、サッカー本大賞ほどこの小説にふさわしいジャンルはないと確信するようになりました。
この小説は、女子サッカーを設定の一部に使っているのではなく、私たちの生きるこの世をまるごと女子サッカー化しようというつもりで書いたからです。
私にとって女子サッカーは、スポーツという枠組みをはるかに超えて、この社会、この世界が実現すべき世界そのものです。2003年に初めて日本の女子代表のサッカーを見てのめり込んで、女子サッカーがもたらす未来感を何とか小説に取り込もうと20年間あれこれ格闘してきて、おそらくようやく書ききれたのがこの作品でした。
サッカー本大賞は、これまでも女子サッカー関連の本をいくつも選んできたわけですが、そんなサッカー本大賞だからこそ、私の試みが本質的に女子サッカーであることを見抜いて評価してくださったのだと思います。
この喜びは一生続くでしょう。ありがとうございました。
(星野智幸)
『流浪の英雄たち シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』(カンゼン)
アンディ・ブラッセル(著)、高野鉄平(訳)
サッカー本大賞に選んでいただき本当にありがとうございます。シャフタールはこの1年半で日本のサッカー界とより緊密な関係を築いてきました。この賞は、シャフタールと日本の関係がうまくいっていることを反映しているのかもしれません。
すべての功績はクラブに帰属します。彼らの物語を紡げたのは、時間を割いて率直に話してくれたスタッフと選手がいたからです。世界が一変しウクライナが自分たちのものを取り戻そうと奮闘するなか、この物語はこれまで以上に重要なものです。
シャフタールの全員が平和とウクライナの自由のある主権国家としての地位回復に向けて努力を続けています。本は完成したとはいえ、彼らの物語はまだ道半ばであり、彼らにふさわしい結末を迎えられることを心から願っています。
この物語が語られるべきだという信念を共有してくれた皆さん、特に私のエージェントであるメラニー・マイケル・グリア氏とリトル・ブラウン社の皆さん、そして日本の出版社カンゼン、翻訳者の高野鉄平氏、そしてカンゼンと繋いでくれたタトル・モリ エイジェンシーに感謝します。
(アンディ・ブラッセル)
このたびはサッカー本大賞という栄えある賞に選出いただき誠に光栄に感じております。
もちろんシャフタールというクラブを熱心に追い続けたアンディ・ブラッセル氏の原著あってこその訳書であり、また担当いただいた石沢氏をはじめとして企画・編集・製本などを通して素晴らしい本に仕上げていただいたカンゼンのお力によるものではありますが、私も翻訳者という形で一端を担うことができたのであればうれしい限りです。
日本から海外サッカーを見ていると、どうしてもピッチ外にまでは目が届きにくくなってしまうのは避けられず、チャンピオンズリーグなどで目にするシャフタールやウクライナの他クラブがいまも本拠地を離れて流浪の中での戦いを強いられているようなことも、知識として把握はしていても実感しづらい部分だと思います。
重苦しい現実を乗り越えてプレーを続けている英雄たちがいることを忘れず、また彼らがいつの日か本来いるべき場所に戻れる日が来ることを願いたいと思います。
(高野鉄平)
特別賞
『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』(カンゼン)
田崎健太(著)
まず本作品が誕生するまでに、実名で登場する方を含め、横浜フリューゲルスに在籍した選手・スタッフの皆様、フロントの皆様・運営していた企業側の皆様、様々な立場の方に取材のご協力をいただきました。改めて皆様方にお礼申し上げます。
中にはこれまでフリューゲルスの取材をあえて受けていなかった方もいらっしゃいました。そんな方が今回お話してくださったのは、皆様の「時間の経過とともにフリューゲルスを忘れられてしまう」「横浜FマリノスのFの意味を知らない世代が増えてきている」。
そういったことに対する危機感や願いがあったからだろうと受け止めています。もう一つ、本作品は横浜フリューゲルスのベースとなった中区スポーツ少年団からクラブ消滅までの軌跡を描いているわけですが、その歩みはまさに日本サッカー史そのものでもあるという点です。
その時々の日本サッカー界がどういう状況だったのかがよくわかる、資料価値が高いものと自負しています。
著者の田崎健太さんが4年かけてまさに心血注いで完成させた作品をぜひ、すべてのサッカーファンの方に読んでいただけたら幸いです。このたびは特別賞に選出いただき、ありがとうございました。
(カンゼン編集部・滝川昂)
翻訳サッカー本大賞・読者賞
『不屈の魂 アフリカとサッカー』(東洋館出版社)
アルベルト・エジョゴ=ウォノ(著)、江間慎一郎、山路琢也(訳)、中町公祐(解説)
『不屈の魂 アフリカとサッカー』は、2011年に創刊されたスペインのフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』が出版した初の書籍でした。
『パネンカ』は日本とまったく無関係の雑誌というわけではなく、カンゼン社が発行していた雑誌『フットボール批評』で僕がお勧めの記事を翻訳して、掲載させていただいていた時期があります。雑誌のことは、このように紹介していました。
「『パネンカ』はメインストリームに飲み込まれず、またクラブ、政党、企業の干渉を受け容れることなく、社会、政治、歴史、勝者、そして敗者の物語を通じてフットボールを多角的に描き出す。リスクを恐れぬ勇敢さで人々の意表を突いた、アントニン・パネンカのチップキックによるPKを道標とする」
パネンカがあの伝説のチップキックを決めたのは、チェコスロバキア代表として臨んだEURO1976決勝西ドイツ戦のPK戦ですが、本人はチームを優勝に導いたあのキックについて、「失敗していたらフットボールを続けることはできなかったろう。共産主義のチェコスロバキアを侮辱する、愛国精神を汚す“ナメた”プレーだったと報復行為が待ち受けていたはずだ。その後は旋盤工にでもなっていただろうね」と振り返っています。
大きな重圧がかかる中で、アイデアと意外性、そして道を切り拓くいう気骨を見せた一撃だったのです。
『パネンカ』で働く人たちはパネンカの信念に倣い、フットボールの良質な読み物を届けること、このスポーツの魅力を深掘りすること、新たな魅力を発見することにこだわり続け、『不屈の魂 アフリカとサッカー』も世に出しました。
作者のアルベルト・エジョゴ=ウォノはフットボールを通じてアフリカを示し、アフリカを通じてフットボールを感じさせてくれます。彼らが放った渾身のチップキックが、読んでくださった方々の心のゴールネットを揺らしたのならば、これ以上の喜びはありません。
最 後に、この書籍を日本で出版したいという僕の熱意を受け止めてくださった東洋館出版社の吉村洋人様、共訳者の山路琢也様に心よりお礼を申し上げたいと思います。
(江間慎一郎)
サッカーと文学の愛好家にとって、ここ数年のスペインはまさに黄金時代です。出版社はスポーツ関連書籍に力を入れており、その新刊リストは毎月のように増え続けています。
私たちフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』はその流れに乗って、2019年に初の書籍としてアルベルト・エジョゴ=オウォノ著『不屈の魂 アフリカとサッカー』を出版しました。
本書はサッカーボールを通じて、アフリカを巡る旅を描いた作品です。この特別な一冊は、日本の東洋館出版社の協力のおかげで、初めて日本語に翻訳された作品にもなりました。
そしてこの度、『不屈の魂 アフリカとサッカー』がサッカー本大賞2024の翻訳大賞を受賞したことを知り、大変嬉しく思っています。
この受賞はサッカー文学への情熱が世界共通のものであることを改めて証明するものとなりました。日本の皆様に、心から感謝を申し上げます。
読者賞に寄せて
『不屈の魂 アフリカとサッカー』は、サッカーを通じてアフリカの歴史を語るユニークな一冊です。その特徴は、著者であるアルベルト・エジョゴ=オウォノ自身の実体験に基づいている点にあります。彼は長年にわたり、赤道ギニア代表としてプレーしてきた人物です。
私たち『パネンカ』は、最初の出版作品として「旅」という視点からサッカーを描くことを決めました。この旅がここまで遠くへ広がり、さらには日本までになるとは想像もしていませんでした。この素晴らしい冒険を支えてくださった皆様に、心から感謝申し上げます。
(マルセル・ベルトラン 『パネンカ』編集者、『不屈の魂 アフリカとサッカー』担当編集)
優秀作品賞
『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』(平凡社)
チャールズ・ワッツ(著)、 結城康平、山中拓磨(訳)
このたび嬉しいお知らせをいただき、大変ありがたく受け止めております。
アーセナルの監督、ミケル・アルテタと南アフリカでサッカーに興じるおばあさんたちの本というように、まったく異なる内容の本ですが、ただ1つ共通することがあります。それは「サッカーを愛している」ということです。
この熱い気持ちを読者の皆さんにいかにして伝えるか、ということに色々と悩みながら本づくりを進めてきました。著者のワッツさん、ジーンさん、訳者の山中拓磨さん、結城康平さん、実川元子さんのサッカー愛もぎゅっと詰まっています。
素敵なデザインをしてくださった三谷明里さん、アルビレオさん、イラストレーターの原倫子さんにも感謝の気持ちをお伝えしたいです。
サッカー界をもっともっと盛り上げていくために、1冊でも良書を世に送り出したいと思います。
(平凡社編集部・平井瑛子)
『サッカー・グラニーズ ボールを蹴って人生を切りひらいた南アフリカのおばあちゃんたちの物語』(平凡社)
ジーン・ダフィー(著)、実川元子(訳)
この度は拙訳書「サッカー・グラニーズ」を優秀賞に選出していただき、ありがとうございます。
本書は平凡社編集者の平井瑛子さんが紹介してくださり、一読して感動したのでぜひ訳したい、とお願いしました。原書をリーディングしたときから、共感のあまり涙が出るほど感動するシーンが何箇所かあり、これほど気持ちを揺さぶられながら翻訳した本はないと言ってもいいほどでした。
サッカーは若く、健康な男性が楽しむスポーツ、というのがおそらく世界的な「常識」だと思います。ところが本書では、南アフリカの片田舎に暮らす60代から80代までの病気持ちの女性たちが、サッカーをすることで健康と自尊心を取り戻していく姿が描かれています。
おばあちゃんという意味のグラニーズたちを率いるベカという女性もガンを患い、入院生活で出会った高齢女性たちが運動不足から引き起こされる高血圧や糖尿病に苦しむ姿に心を痛め、空き地でいっしょに運動を始めたのが「サッカー・グラニーズ」が生まれるきっかけでした。
ベカが呼びかけて、南アフリカ周辺の国々だけでなく、アメリカ、フランスやスペインのサッカー・グラニーズたちの大会が南アフリカで2年に1回開催されています。
今年も4月に開催される予定で、どんどん参加チームが増える盛況ぶりをネットで見て私は目を見張り、心を躍らせています。
私がサッカーに魅了されたのは、中学生のとき1968年メキシコ・オリンピックで日本が銅メダルを獲得した試合がきっかけでした。以来、60年近くサッカーの魅力に取り憑かれています。
サッカーは試合観戦やプレイも楽しいのですが、「サッカー本を読む」という楽しみもあります。優れた試合リポートや選手の伝記や監督の手記だけでなく、サッカーが社会や歴史に及ぼす影響について書かれた書籍や記事に私はとくに惹かれます。
本書のように、差別と貧困に苦しみ、社会の片隅の追いやられてきたグラニーズたちが、サッカーをすることで自分たち自身が変わるだけでなくコミュニティを変え、やがては世界のあちこちの高齢女性たちを変えていくような本は、「サッカーを読む」楽しみに満ちている、と思っています。
サッカー本大賞は、サッカーを「する」「見る」楽しみに加えて、あらたに「サッカーを読む」価値を知らしめた功績があります。本書を優秀賞に選考していただいたのは「サッカーを読む」楽しみがつまっている点を評価していただいたからだろう、と僭越ながら訳者として嬉しく思っております。
これからも世界中の優れたサッカー本を翻訳していきたい、と今回の受賞にあらためて背中を押していただいたことに感謝し、受賞の言葉とさせていただきます。
(実川元子)
『あの夏のクライフ同盟』(幻冬舎)
増山実(著)
「クライフ同盟」。まず最初に、ふとこのタイトルがどこかから降りてきました。
そして決めたのです。ヨハン・クライフをめぐる中学生たちの物語を書こう、と。
これは彼らの「友情」の物語であり、「冒険」の物語であり、「旅」の物語です。そして「14番」の物語です。「14番」はヨハン・クライフただ一人を指すのではなく、サッカーを愛する人ならば誰もがその心の中にいつまでも生きている、「憧れ」の象徴です。
この物語が「面白いサッカー小説」として「サッカー本大賞2025」の優秀賞に選ばれたことを心より嬉しく思います。
サッカーを愛する人はもちろん、かつて「14歳」だったすべての人々にこの物語を届けたい。
今回「サッカー本大賞2025」の優秀作品に選ばれたことで、より多くの読者にこの物語が届き、読者それぞれの「14番」に思いを馳せていただければ、作者にとってこれ以上の喜びはありません。
この物語の背中を押してくださった、すべての方々に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
(増山実)
【関連記事】
『サッカー本大賞』読者投票! あなたが選ぶ2024年、最も面白かったサッカー本は?
『サッカー本大賞 2025』読書感想文キャンペーンを実施! 当選者には豪華賞品も
【了】