遠距離家族
ヴァンフォーレ甲府の監督には、2012年に就任した。単身赴任である。部屋はどんなかと聞くと、「住めればいいくらいで、特にインテリアに気を使うでもなく、でも、結構ちゃんとしたマンションです」と返ってきた。掃除はまめにしているらしい。
自炊はしない。食事はクラブの寮で食べることにしている。外食だと気を使うし、第一、何を食べようかを考えるのも面倒。それなら、寮で出されたものを食べた方が、気が楽だ。
ただし、選手たちと一緒に食べることになるので、彼らがくつろいでいる時間帯は、極力さけるようにしている。みんながいなくなったころを見計らって、食堂に入るという。
出てきたご飯は、早めに食べる。遅くなり過ぎて、食堂のおばさんに迷惑がかかるのも悪いからだ。なんだか、外よりも気を使っているような、気がしないでもない。
甲府には、たまに妻が来てくれる。自分も二週間にいっぺんは、東京に帰っている。道が混んでいる週末を除けば、車で自宅まで二時間もあれば帰れる。東京と甲府は、思いのほか近い。
離れていることで、逆に感情を出せることもある。こんなことがあった。甲府で、ちょうど試合をしているときに、自宅の犬が突然死んでしまったのだ。試合が終わり携帯電話に出ると、受話器の向こうの家族が、全員号泣していた。
その時、ふと思った。「家族が、こうやって感情を表せるのは、悪いことじゃない」子供たちも成長し、親の前で泣いたりすることも、ほとんどなくなった。でも、今こうして自分の前で嗚咽し、悲しみを表している。城福は、遠く離れた地で、家族の悲しみを受け止めた。
「でもね、その時はっきりと言われたんですよ。『パパが死んでも、ぜったいに泣かない』って(笑)」
自慢の家族である。