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【クロップ監督とリバプールの戦術史5】“麻薬”と引き換えに生まれた「脆さ」。なぜアイデンティティーを失ったのか?

text by 結城康平 photo by Getty Images

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2015年10月にリバプールの監督に就任したユルゲン・クロップは、在任9シーズンの中で様々な変化をもたらし、輝かしい実績と功績を残した。クロップ政権下のリバプールを戦術的に記した2万字に迫る長編コラムから一部を抜粋し、変化に伴い歪みが生まれた22/23シーズンに焦点を当てる。(文:結城康平)

マネ
【写真:Getty Images】


失ったアイデンティティーと解決できなかった課題(22/23)

 前線の補強を重ねたチームにとって、夏の補強で目玉となったのがダルウィン・ヌニェスだ。リバプールが長年フィルミーノに任せていたセンターフォワードに、フィジカルで戦える大型ストライカーを加えたのだ。

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 これはグアルディオラのマンチェスター・シティがアーリング・ハーランドを獲得した事実と比較され、プレミアの2強がチームとしての幅を広げようとしていることに注目が集まっていた。冬にはオランダ代表でも活躍したコーディ・ガクポを加えるなど、補強は前線のメンバーに集中した。

 しかし、ヌニェスとガクポは序列を覆すことができず、補強としては大成功とは言いづらい。期待外れというほど酷い訳ではないが、チームに欠かせない存在になるには、まだまだ成長が求められる。

 このシーズンは少しずつチームのアイデンティティーだった「強度」を失っていたという手痛い指摘もあるシーズンとなった。主軸として陰でチームを支えてきたヘンダーソンやミルナーが少しずつ年齢を重ねており、勤続疲労を抱えていたことで、少しずつチームの強度を失っていた。そこにテクニシャンで、スライディングタックルなどは得意だが予防的なカバーリングなどは苦手とするチアゴを主軸に加えたことで、中盤が少しずつ相手のショートカウンターに脆くなっていたのだ。

 更にサディオ・マネもバイエルン・ミュンヘンに放出しており、これもチームとしての質を落とす原因となっていた。他の選手でも推進力やドリブルなど、マネの能力を部分的には補うことは可能だ。だが、ボール奪取とロングボールを収める能力を兼ね備え、ドリブルを仕掛けても徹底して「失うことなくボールを運ぶこと」に強みを持ったマネは、特別な選手だった。

 クロップのフットボールを象徴する選手がチームを離れたことで、どうしてもバランスは悪くなる。チアゴが中盤の底でゲームを作ろうとするとネガトラで脆くなってしまい、その結果として「綱渡り」になってしまうような場面が増えた。

 そして、偽サイドバックというのも麻薬だった。リバプールはアーノルドの展開力を活かすべく、中央に動かす「偽サイドバック」を導入するが、それもチームのバランスを崩す一因になってしまった。攻撃では魅力的なこの戦術も、中央に移動したアーノルドがカウンターで埋めなければならないスペースが広くなるという課題を抱えており、そこも解決されることはなかった。

 クロップとラインダースは変化を求めていたが、グアルディオラという天才があまりにハイスピードで変化に適応していく一方、その変化に振り回されてしまった感が否めない。そしてチームを支えてきた中盤の刷新について、かなり出遅れたのも大きかった。チアゴの創造性という麻薬に手を出してしまったことで、中盤のスペースを埋めていた選手たちの衰えに気づかず、前線ばかりを補強してしまった。

(文:結城康平)

【この記事は一部抜粋したものです。記事全文ではユルゲン・クロップがリバプールの指揮を執った約9年間の変遷を、戦術的な視点で詳細に記しています】

【了】

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