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【クロップ監督とリバプールの戦術史3】ネジが外れていた。生に固執するのではなく、死に向き合うような勇敢なアプローチ

text by 結城康平 photo by Getty Images

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2015年10月にリバプールの監督に就任したユルゲン・クロップは、在任9シーズンの中で様々な変化をもたらし、輝かしい実績と功績を残した。クロップ政権下のリバプールを戦術的に記した2万字に迫る長編コラムから一部を抜粋し、正規の乱打戦を展開した17/18シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ準決勝を中心に取り上げる。(文:結城康平)

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【写真:Getty Images】


“ネジが外れていた”ローマとの乱打戦(17/18)

 それに加えて、ディ・フランチェスコ率いるローマも激しいプレッシングと得点力を誇るチームとして評価されており、準決勝での彼らの激突はノーガードの殴り合いになった。「総得点の51%がファイナルサードでのボール奪取を起点としており、敵陣でのボール奪回が得点に直結する傾向にあった」というデータを証明するような結果を残した両チームは、敵陣でボールを奪えば直線的にゴールに迫っていく。だからこそ彼らは両ウイングを中央に近いポジションでプレーさせており、エバートンやマンチェスター・ユナイテッドを指揮したデイビッド・モイーズは「リバプールの3トップの両翼は極端に中央に絞っており、広くピッチを使うためにサイドライン際に位置する従来のウイングとは役割が異なっている」とコメントした。

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 アンフィールドでの1stレグはリバプールがゲームを支配し、70分までに5ゴールを決めて「ゲームを終わらせた」かと思われた。しかし最後の10分で2点を返したローマが、2ndレグに希望を残す。2ndレグでもリバプールが2-1とリードしたが、後半にローマが猛烈に反撃する。後半で3ゴールを決めたローマはリバプールを追い詰め、2試合で13ゴールという乱打戦になった。

 大事な試合こそ、慎重に守備から……というチームが多かったこれまでのチームと比較すると、その2チームはネジが外れていた。ジョゼ・モウリーニョの守備的なフットボールもグアルディオラのポゼッションも、あくまでチームのバランスを整えることを重視していた。グアルディオラはボールを持つことで安定した陣形を整え、そこからのプレッシングで即時奪回を仕掛ける。しかし、ローマやリバプールは不安定な状況を苦にせず、むしろ不安定な局面に力づくで相手を引きずり込んでしまう。そうなれば、セカンドボールをどちらが拾うかのギャンブルだ。

 生に固執するのではなく、死に向き合うような勇敢なアプローチで彼らは一つの時代を築いた。そして、このタイミングで「フィナンシャル・タイムズ」のコラムニストとしても活躍する英国人サイモン・クーパーが「ストーミング」という言葉でリバプールの戦術を表現したことにも言及すべきだろう。

 ボールを失うことを恐れる相手を嘲笑うように、クロップのチームは五分五分のボールで相手をカオスな状況に誘い込み、そこからの反射的なプレッシングでボールを奪う。まるで獣の群れのようなプレッシングは、間違いなくヨーロッパの覇権に手を伸ばしていた。

 唯一の問題としては、コーチングスタッフのゼリコ・ブバチがローマとのチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグの直前に「個人的な理由」でチームから離脱し、クラブから去っていたことだろう。クロップの右腕として彼を支えてきたアシスタントコーチは、結果的に2019年に正式にチームを去ることになる。そして後釜には、ペピン・ラインダースが呼び戻されることになる。

(文:結城康平)

【この記事は一部抜粋したものです。記事全文ではユルゲン・クロップがリバプールの指揮を執った約9年間の変遷を、戦術的な視点で詳細に記しています】

【了】

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