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エイジはチームで最もキャプテンに適している
リールセの選手の多くは、電車なら15分ほどの大都市アントワープに居を構えていたが、川島は、朝の渋滞の可能性を懸念して、とくに何もない小さな住宅地であるリールセに家を借りることにこだわった。
また、クラブ内では英語が公用語であるにもかかわらず、「地元の人たちと彼らの言葉で交流したい」という思いから、ベルギーの2つの公用語――フラマン語(オランダ語の派生語)とフランス語――の習得にも励んだ。
彼のそういった姿勢は、「このクラブの一員になりたい」というメッセージとして伝わり、川島は、クラブを取り巻く人々やファンにとって、家族のように大切な存在となっていった。
カイザー氏は続ける。
「練習に遅刻したこともなければ、練習中も常に全身全霊で取り組む。もちろん試合でも毎回全力を出し切る」
中でも感心したのは、川島が絶えずミスを修正しようとする姿勢だったという。
「ある試合で、一度は受けたボールをファンブルして前に落とし、それを押し込まれて失点したことがあった。結局その試合は負けてしまったのだが、まあ、誰にでもミスはある。しかしエイジはその後、練習で徹底的にミスした点を確認していた。そして二度と同じ間違いは繰り返さなかった」
この姿勢が他のチームメイトに与える影響は絶大だった。
入団して2季目を迎えた頃、監督以下、誰ひとりとして異を唱える者はなく、川島をキャプテンに任命することが決まった。
「日本人であることなど関係なく、リーダーシップ、勤勉さ、取り組む姿勢、サッカーの能力、あらゆる要素において、チーム内でエイジがもっともキャプテンに適する人材でした」とカイザー氏は言う。
プレーの面でも、川島はリールセに在籍した2年間で目覚ましい成長を遂げた。
ひとつは、ミスが激減したこと、そしてもうひとつはパフォーマンスが安定したこと。
「今後の課題は、横から飛び出すセンタリングの処理。ライン際の反射神経は抜群で、ジャンプ力も素晴らしいが、横クロスに対する判断力はまだ改善の余地がある」とカイザー氏は分析するが、「逆にこの部分がクリアできれば、エイジは世界中どこででも通用するGKになるだろう」と彼の将来性を確信する。
「エイジは、日本人のイメージとしてありがちな、シャイさ、というものがない。自分の能力にも自信を持っている。しかしそれでいて謙虚さを失わず、努力を惜しまない。人柄、性格と、サッカーへの取り組み方、これが彼を成功へと導いたのだろう」とカイザー氏は結んだ。