「頂点にいるうちに身を引きたい」
パルク・デ・プランスの大観衆に見送られた涙の引退試合から4日後、同じ場所に、デビッド・ベッカムの姿があった。この日は、クラブが設立したチャリティ目的の財団が近隣に住む子供たちを招いての公開練習。PSGのシャツを着せてもらってゴキゲンのやんちゃ坊主たちが叫ぶ。
『We love Beckham!! We love Beckham!!』
しかし彼らが熱い視線を送るヒーローは、ハーフコートで行われているミニゲームの集団の中にはいなかった。ベッカムは少し離れたゴールポストの脇に立ち、目を細めてチームメイトたちがボールを追う姿を眺めていた。
誰かがゴールを決めると大きく手を叩き、外せば「オー!」と声を出して悔しがる。すでに現役を終えた、元選手の姿がそこにはあった。
5月16日、38歳になってちょうど2週間後、ベッカムは現役引退を発表した。クラブ関係者によると、正式に優勝が決定する前から、すでにクラブ側には引退の意思を伝えていたという。
「頂点にいるうちに身を引きたい」
それが彼の考えだった。
約1ヶ月前の4月上旬、ベッカム本人にインタビューする機会があった。そのとき来季について尋ねると、「この年になると、1シーズン終えてからまた次、というように、短いスパンでしか考えられない」と話していた。
実際、あと1、2年はやれる体力と気力は十分にあったから、そのときは、クラブ側の求めに応じて1年の契約延長に応じるのではないかという気がしていた。
しかし、彼が下した決断は、スパイクを脱ぐことだった。