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リバプールが苦しんだ理論と現実のギャップ。ポジショナルの要素を追求したことで失われたものとは?【一体化する4局面・前編】

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

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サッカーはボール保持、ボール非保持、攻撃→守備、守備→攻撃という4つの局面に分けることができる。サッカー4局面の解剖学と題しサッカーのトランジションについて考察する『フットボール批評issue35』(3月7日発売)では、今年2月に2冊の書籍を上梓した龍岡歩氏が4局面の過去を辿りつつ4局面の未来を占った。今回は『フットボール批評issue35』の「4局面クロニクル」より、完全一体期と称する現代サッカーについての考察部分を一部抜粋で公開する。今回は前編。(文:龍岡歩)



リバプールは何を失ったのか?

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【写真:Getty Images】

 ジダンマドリーの成功をモデルケースに2010年代後半は攻守の4局面すべてを極めんとするオールラウンダーの時代へ突入すると思われた。実際、クロップもペップもその道を歩もうとしている。例えばクロップのリヴァプールではボールを保持した時にも戦えるよう、ポジショナルフットボールの要素を貪欲に取り入れている。かつてボールを「捨てろ」と言ってきた男が、である。それはクロップ就任以降のリヴァプールの1試合平均パス本数の推移を見ても明らかであろう。

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 リヴァプールの1試合平均パス数推移(Wyscout調べ)

2015―16=499本
2016―17=573本
2017―18=562本
2018―19=582本
2019―20=619本

 クロップがリヴァプールの監督に就任した初年度と比較すると、19―20シーズンには1試合平均で100本以上パスが増えている。しかし、その結果として彼らの最大の強みであったはずのカウンターの鋭さと縦への推進力が次第に失われていったのは皮肉であった。今やリヴァプールの平均ボール保持率は60%を超えており、これはもはやストーミングとは対極のポジショナルフットボール型のチームに軸足を置き換えたといっても過言ではない数字だ。だがそうして迎えた20―21シーズンは怪我人の影響もあるが、このバランスの分水嶺が遂に臨界点を超え、深刻な不振に陥ってしまった。

 難しいのは4局面すべてを極めることイコール最強とする理論上の展開と、実際のサッカーをプレーするのは人間であるという現実との乖離である。先のリヴァプールの例でいえば、ボール保持の局面における振る舞いは確かに向上したが、その結果としてサラーやマネといった選手の持ち味は消えてしまっている。

『フットボール批評issue35』

<書籍概要>

定価:1650円(本体1500円+税)

特集 サッカー4局面の解剖学

「攻守の切り替え」は死語である

 サッカーの局面は大まかにボール保持、ボール非保持、攻撃→守備、守備→攻撃の4つに分けられる、とされている。一方でビジネスの局面は商談、契約などには分けず、プロジェクトの一区切りを指す意味合いで使われることが多いという。しかし、考えてみれば、サッカーの試合は区切りにくいのに局面を分けようとしているのに対し、ビジネスの場面は区切れそうなのに局面を分けようとしていない。禅問答のようで非常にややこしい。

 が、局面そのものを一区切りとするビジネスの割り切り方は本質を突いている。プロジェクト成功という目的さえあれば、やるべきことは様々な局面で自然と明確になるからだ。ならば、ビジネス以上にクリアな目的(ゴール)があるサッカーは本来、ビジネス以上の割り切り方ができる、はず。結局のところ、4局面を解剖する行為は、サッカーの目的(ゴール)を再確認するだけの行為なのかもしれない。

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【了】

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