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ただひたすら「プロサッカー選手を続けていく」という姿勢。スポーツの持つプラスの力とは?【サッカー本新刊レビュー:試合が2倍おいしくなる本(5)】

シリーズ:サッカー本大賞 text by 実川元子 photo by Getty Images

サッカー本 新刊レビュー

小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年以降に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。




『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』


(KADOKAWA:刊)
著者:松本光平
構成:宇都宮徹壱
定価:1,650円(本体1,500円+税)
頁数:208頁

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【写真:Getty Images】

 1989年生まれ、プロサッカー選手、松本光平の人生は、波乱万丈、というよりもとにかく濃い。セレッソ大阪U-15からガンバ大阪ユースに周囲の反対を押し切って「禁断の移籍」をし、怪我もあってトップに上がれないとわかると、英国に渡ってプロ選手になる道を探る。ビザが取れずに英国でプロ選手になれないとわかると、ニュージーランドに渡る。その後もタイ、アメリカ、カナダ、オセアニアなど世界を駆け回りながら、プロサッカー選手として活躍できる場を探し、目標にしていたFIFAクラブワールドカップ出場も果たす。


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 1989年生まれ、プロサッカー選手、松本光平の人生は、波乱万丈、というよりもとにかく濃い。セレッソ大阪U-15からガンバ大阪ユースに周囲の反対を押し切って「禁断の移籍」をし、怪我もあってトップに上がれないとわかると、英国に渡ってプロ選手になる道を探る。ビザが取れずに英国でプロ選手になれないとわかると、ニュージーランドに渡る。その後もタイ、アメリカ、カナダ、オセアニアなど世界を駆け回りながら、プロサッカー選手として活躍できる場を探し、目標にしていたFIFAクラブワールドカップ出場も果たす。

 だが、ニュージーランドのクラブに在籍中、コロナ禍で厳しいロックダウンで試合も練習もできない中で、筋トレをしている時に眼球に釘が刺ささってしまった! 急遽帰国し、緊急手術。残念ながら右目が失明し、左目も微かに光を感じるほどになってしまう。それでも、それでもだ。松本光平はプロサッカー選手を諦めないのだ。

 次から次へと松本光平が見舞われる「災難」に、読みながらはらはらした。一読者に過ぎない私でも、喉元まで「もうやめて別の道に進んだら」とアドバイスしたくなるのだから、身近な人たちはどれくらい気を揉まれただろう、と想像する。ところが本人がまったく動じない。そして周囲の人たちは、そんな松本光平に驚き呆れながらも、なんとかしてやろうとひと肌脱ぐのだ。

『「あのときに戻ってやり直したい」と思ったことは一度もありません。良いことも悪いことも、すべての経験が今につながっていると考えるからです。』

『僕がサッカーを続けることで、たとえ目に障碍があっても、プロのサッカー選手としてプレーできることを証明したい。』

 こんなことを30代に言われたら、何かできることはないか、とつい申し出たくなってしまうだろう。

 本書はサッカー本のジャンルに入らないかもしれないし、かといって自己啓発本でもない。松本光平は、やりたいことを、やりたいと公言し、やり続けるための道を必死に探り、助けを求め、感謝を忘れない。子どもの頃の「やりたいこと」を、成長するに従って諦めてしまう人が大半の世の中(私もその一人だ)で、その姿勢は輝きを放っている。たくさんお金を稼ぎたい、おいしいものを食べたい、大きな家に住みたい、などといったことを「人生の目標」にする人が多い中で(私もその一人だ)、松本光平のように富や名声ではなく、ただひたすら「プロサッカー選手を続けていく」という初心のベースを貫く姿勢は見習いたい。

 宇都宮徹壱の構成と取材で、「たいへんな困難を乗り越えた苦労話」に終わらない深い内容になっている。ブラインドサッカーとロービジョンフットサルを通しての、障碍者スポーツについての見方と知識も深まる。いろいろと苦々しいニュースが流れた北京冬季オリンピックだったが、本書のおかげでサッカーだけでなく、スポーツの持つプラスの力をあらためて感じることができた。

(文:実川元子)


実川元子(じつかわ・もとこ)
翻訳家/ライター。上智大学仏語科卒。兵庫県出身。ガンバ大阪の自称熱烈サポーター。サッカー関連の訳書にD・ビーティ『英国のダービーマッチ』(白水社)、ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神』(同)、B・リトルトン『PK』(小社)など。近刊はS.G.フォーデン『ハウス・オブ・グッチ』(早川書房)。

【了】

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