巨大エナジードリンクメーカーがなぜサッカー界に照準を合わせたのか、アンチも注目せざるを得ないその巧妙かつ革命的な戦略史を辿る『エクストリームフットボール』(12月20日発売)より、マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任し注目を集めるラルフ・ラングニックについて書かれた1章「欧州を制圧するレッドブル帝国の野望」の「教授と呼ばれた男」を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:カラン・テージワーニ)
「単なる守備的なアプローチとは異なっていた」
そして、そこでヴァレリー・ロバノフスキーが率いるディナモ・キエフという衝撃を味わうことになる。ドイツでシーズン途中のトレーニングキャンプをしていたディナモ・キエフがトレーニングマッチの相手としてラングニックのチームを選んだことで、守備的なMFとしてプレーしていたラングニックは驚愕することになる。
ラングニックはラファエル・ホーニシュタインのインタビューで次のようにトレーニングマッチを振り返っている。
「試合開始から数分後、ボールが外に出てスローインになった。私は一度落ち着いて相手の人数を数えなければならなかった。何かがおかしいと思った。彼らはピッチに13、14人がプレーしているのではないか? それがシステマチックにプレッシングしてくるチームと対戦する初めてのゲームだった。
過去にはプロのチームと対戦したこともあり、当時も負けてしまったがそれでもスペースは与えられていた。ボールを保持し、少し落ち着く時間はあったのだ。しかし、ディナモ・キエフとの試合では90分間プレッシャーを感じ続けた。そして、私のチームメイトも同様のことを感じていた。
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私は試合において相手を徹底的に追い回すタイプだった。中盤でプレーしていたので、相手をゲームから除外するようなプレーだけは得意だったのだ。ただ、そういう守備的なスタイルの結果として私もボールに触れることは減ってしまったのだが……。そういったプレーが正しいと感じたことはなかったが、ディナモ・キエフのアプローチは単なる守備的なアプローチとは異なっていた」
ロバノフスキー率いるチームはドイツをキャンプ地として好んでおり、そのたびにラングニックはトレーニンググラウンドに通った。彼は少しでもメモを取り、ロバノフスキーのアプローチを学ぼうとしたのだ。
そしてアマチュアチームの監督としてシュトゥットガルトに戻ると、そこで彼はラングニックと似た思想を持つ盟友ヘルメート・グロースと出会う。グロースはアドバイザーやスカウトとしてサッカークラブの裏側で働いていたが、ラングニックとの出会いは彼にとっても人生を変えるものだった。
<書籍概要>
定価:1980円(本体1800円+税)
アンチ上等! サッカー界の既成概念を「再配合」するレッドブル帝国の正体
衝撃的ともいえるそのスピードと徹底的なチームの献身性――。レッドブル・ザルツブルク、RBライプツィヒなどの背後に君臨するレッドブルグループは世界中のスポーツ界で勢力を伸ばしつつある。一方でピッチ外でも展開されるマーケティングによって利益を得ることに長けた彼らのアンチも少なくない。巨大エナジードリンクメーカーがなぜサッカー界に照準を合わせたのか、アンチも注目せざるを得ないその巧妙かつ革命的な戦略史を辿る。
【了】