【写真提供:JFA】
日本代表は12日、カタールワールドカップのアジア最終予選でオーストラリア代表に2-1の勝利を収めた。
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負けが許されない大一番で、森保一監督はシステム変更を決断。これまで主に使ってきた4-2-3-1ではなく4-3-3を採用し、中盤の形を正三角形から逆三角形に変えた。そして、この判断が功を奏して勝利をつかみ取ることができた。
攻撃では「サイドバックがビルドアップの時に高い位置を取ってくるので、ボールを奪ってから、そのスペースを突いていけるのではないか」という指揮官の狙い通り、両サイドを使った崩しが有効だった。右サイドはウィングのMF伊東純也、左サイドはサイドバックのDF長友佑都が積極的に相手のディフェンスラインの背後を狙ってチャンスに絡んでいた。
一方、守備では徐々に形に変化が生まれていた。見た目は4-3-3というより、4-3-1-2のような形。オーストラリア代表はセンターバックが敵陣内でボールを持ったとき、同時に両サイドバックがハーフウェーラインを超えて高い位置をとってくる。
それに対し日本は両ウィングの伊東とMF南野拓実が相手センターバックの外側からサイドバックへのパスコースを切るようにプレスをかけ、1トップのFW大迫勇也が少し下がり目で中央の相手ボランチへのパスコースを牽制する。それによって4-3-1-2のような形に見えていたのだった。
もし伊東や南野のプレスをかわされて相手サイドバックにボールが出ると、日本は同サイドのサイドバックが縦への侵攻を防ぐような位置どりで前に出る。相手のボールがハーフウェーラインを超えると通常の4-3-3に戻し、両ウィングはサイドの守備に走る。2つの型を使い分ける今回の戦術は、オーストラリアのビルドアップを寸断して得意な攻撃の形を作らせないための可変システムと言えるかもしれない。
「(南野)拓実と(伊東)純也のポジショニングはかなり高めにやっていたので、サイドバックがそのぶん高い位置を取らないと厳しいですけど、そこは今日うまくやれていたと思う。拓実も純也も下がりすぎず、中間ポジションを取る。
あとはサコくん(大迫)がセンターバックのところに動きすぎるとキツくなってしまうので、センターバックには行かせないで、落ちてきたボランチを見させながら、拓実と純也にセンターバックへ(プレスに)行かせるのはうまくやれていたと思う。ボランチも(田中)碧と守田(英正)がしっかりついていたので、うまくいったかなと思います」
そう語るのは日本の中盤アンカーに入っていたMF遠藤航だ。4-3-3のまま1トップの大迫に両センターバックを追わせ、両ウィングを相手のサイドバックにぴったりつける定石ではなく、より負担を少なくしながらポジショニングで相手のビルドアップに制限をかける戦い方は概ね機能していた。
しかし、そもそも4-3-3の採用が「理詰めは正直そこまでできていなくて、ぶっつけ本番」(守田)なものだったが故に、守備がうまくハマらなかった場面もあった。象徴的だったのは守田が失点につながるファウルを犯す直前に起こった相手の攻撃のシチュエーションだ。
相手が後ろにボールを戻したとき、両センターバックに対して大迫と南野が前に出てプレスをかけ、パスを受けにポジションを落としたMFには守田がついていく。この時点で3対3となっており、南野のマークが外れたオーストラリアの右サイドバック、DFフラン・カラチッチはハーフウェーライン付近にポジションを取った。
そこでオーストラリアの右センターバック、DFトレント・セインズバリーから守田がマークしていたMFジャクソン・アーバインにパスが通り、アーバインは振り向きざまに右へ展開する。そのパスの先にはカラチッチがフリーで待っていた。
後手の対応を強いられた日本は、南野が左サイドを留守にしている。そのため長友が自分のマークしていた選手を捨てて前に出て、カラチッチに寄せるが間に合わず。縦に一気に展開され、MFマーティン・ボイルが完全フリーで日本の左サイドに抜け出した。
慌ててカバーに戻った遠藤のスライディングも一瞬遅く、ボイルはマイナス方向へ折り返す。日本はペナルティエリア内で数的優位を作れていたが、後ろから走ってくる選手までケアしきれておらず、ボイルからのパスに対してフリーで走りこんできたMFアイディン・フルスティッチに帰陣した守田が飛び込むしかフィニッシュを阻む選択肢がなかった。
一時は守田のスライディングタックルがファウルでオーストラリアにPKが与えられたが、VARチェックの結果、反則はペナルティエリア外と判定されフリーキックに。しかし、これをフルスティッチに直接決められて同点に追いつかれてしまった。
ここまでの一連の守備対応の流れについて、長友は試合直後に関わった選手たちによる議論があったことを明かす。
「前が3対3の状態になっていて、今日は基本的に南野が(ディフェンスライン近くに)落ちたボランチやセンターバックに(プレスに)行った時には、相手のサイドバックに僕がなるべく縦切りでスライドするような役割で、前半から結構難しい判断もあったんですよね。僕が本当にサイドバックに出てもいいのかどうかで。
あの失点シーンはみんなで確認して見たんですけど、結論は僕があそこでサイドバックに出て、冨安(健洋)がズレて(吉田)麻也がスライドするできれば問題なかったという結論になったんです。ただ、僕自身ももっと縦を切っていれば、もしかしたらやられなかったかもしれないし、冨安もちょっと麻也との距離があったので、そこの間で自分がサイドの選手にスライドしていいのかどうかを迷ってしまった。ただ、選手の中で話したのは、あれは冨安と麻也がズレて、僕がサイドバックで、全体的にズレるという話し合いはしました」
一瞬の判断が求められる難しい状況だったが、ペナルティエリア内にはMF田中碧も戻っており、守備の人数は足りていた。今後同じようなシチュエーションが起きた時には、オーストラリア戦の経験が生かされるだろう。
後方から新システムの機能性を目の当たりにしたGK権田修一はこんなことを言っていた。
「何がすごいと思ったかというと、ほぼ2日間の練習で今日の試合を迎えたんですね。僕ら選手もこの並びでいくのを直前で知ったくらいなので。そうなったときの準備力というか、このメンバーでいくとわかった時から、今日のハーフタイムも試合後も、みんなが『もっとこうしたらよかったですね』という話をずっと続けている。
ボールにプレッシャーに行けるのも、後ろがしっかりついてきてくれるという安心材料がなければいけないと思うんです。そこをみんなが共有できたからこそ、入りからみんながアグレッシブな戦いをできたのかなと思います。
ただ、これがベストじゃないですし、まだまだ向上する余地がたくさんある。試合後、みんなが『あのときはこうすればよかったですかね?』と話しているのは、このチームの伸びしろだと思いますし、ポジティブなことなのかなと感じています」
選手たちの距離感や立ち位置のバランスが大事になる難しい戦術をほぼ即興で機能させ、かつ攻撃と守備で形を変えることもできた。試合を通して各ポジションの役割の整理も進み、改善点も見出している。4-3-3は日本代表の新たなオプションとして、アジア最終予選突破の鍵を握るシステムになるかもしれない。
(取材・文:舩木渉)
【了】