【写真:Getty Images】
日本代表は12日、カタールワールドカップのアジア最終予選でオーストラリア代表に2-1の勝利を収めた。
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負ければワールドカップ出場権獲得の可能性が極めて低くなってしまう厳しい状況で、森保一監督が変貌を遂げた。
慣れ親しんできた4-2-3-1から4-1-4-1(4-3-3)へのシステム変更を決断し、中盤に「トレーニングでも非常に存在感がある良いプレーをしてくれていた」MF守田英正とMF田中碧という代表経験の浅い2人を起用。8分に田中が先制ゴールを挙げて結果も残した。
「どういう形が一番力が出るのかを考えながら、かつオーストラリアとのマッチアップを考えた時に、我々のストロングポイントがしっかりと出せるように、そして相手のよさを消せるように。2人のコンディションとプレーがよく、4-1-4-1の形がいいという判断で準備を進めました」
システム変更は、これまで森保ジャパンが積み上げてきたコンセプトを選手たちに思い出させるための手段でもあっただろう。森保監督は「攻撃の優先順位として、奪ってできるだけ素早く相手のゴールに向かっていくということと、それができなかった時にはマイボールを大切にして、ボールを動かして保持しながら、ゲームをコントロールしてチャンスを作っていこうということ。これまでのベースの中、選手たちが本当に意識を持って準備してくれたことがゲーム内容に反映された」と語る。
積極性と自信を取り戻した日本代表は力強かった。「特別私が何かをやったということはありません」と指揮官は謙遜するが、グループ屈指の強豪との負けられない大一番でシステム変更に踏み切るには勇気が必要だっただろう。
先発出場のチャンスをつかんで存在感を発揮した守田は「今日は選手個々の特徴を活かせたと思いますし、守備で奪ってから速い攻撃もできたし、無理に(攻めに)いかずに押し込むというのも選べたし、後出しのジャンケンのような、相手を見て判断して(前進を)やめられるというのが全体的にできたなと思う。4-3-3で今までになかったシステムですけど、自分たちがやりたいようなサッカーは表現できたし、見ていてワクワクするサッカーを表現できたんじゃないかと思います」と手応えを語っていた。
DF長友佑都も「守田や田中が入って、中盤でタメができ、ボールを持てる時間が増えたのは感じています。そこで時間を作れるので、僕が高い位置を取れたり、僕が高い位置を取ることによって中に入った南野(拓実)がフリーになれたり、大迫(勇也)と近い距離感でプレーできた」と新システムのメリットを実感している。
交代カードの使い方にも明確な意図がうかがえた。1点リードしていた後半の61分、森保監督はFW大迫勇也に代えてFW古橋亨梧を投入し、1トップを入れ替える。スピードとハードワークを兼ね備えたストライカーを入れることで守備におけるプレスの強度を高め、攻撃時には鋭い抜け出しもある古橋の存在によって相手のディフェンスラインを押し下げようとした。
1-1に追いつかれた後の采配にも“攻め”の意識が表れていた。森保監督は78分にMF南野拓実を下げてMF浅野拓磨を起用。MF伊東純也、古橋、浅野といういずれもスピードが持ち味の選手を配した高速3トップでさらに相手のディフェンスラインに圧力をかけ、再び勝ち越しゴールを目指す姿勢を見せていく。そして、86分にはDF吉田麻也のロングパスに飛び出した浅野が相手のオウンゴールを誘発し、日本は再びリードを奪った。
森保監督は「厳しい状況、プレッシャーのかかる状況でしたが、私自身の心構えとしては、守りに入らないように、勝利につかみ取りにいくんだという前向きな言動、采配をしたいなとは思っていました」と試合を振り返る。その言葉通りの采配だった。
再び勝ち越す直前、MF柴崎岳とDF中山雄太を投入。「守田が全て出し切ってくれていた」と、柴崎の投入は体力的な部分を考慮したが、同時に「終盤の我々が勝たなければいけない状況の中で、岳が持っている攻守をつなぐ能力、そして彼が守備から攻撃にいい関わりをしてくれるだろうということで送り出しました」と特徴を考慮した交代策であることも明かした。
7日のサウジアラビア戦で失点に直結するミスを犯していた柴崎にチャンスを与え、チームにさらに勢いをもたらす役割を与えたのは信頼の証。2点目の直後に森保監督はタッチライン際で柴崎を呼び、4-1-4-1から4-2-3-1へのシステム変更の指示を伝え、背番号7はそれを瞬時にチームへ共有。落ち着いたプレーで勝ち越しと逃げ切りに貢献した。長友から中山への交代も、体力的な側面とサイドの守備強化という意図があったのだろう。
「交代枠はもう1人余っていたので、できれば全て使って1人でも多くの選手をピッチに送り出したかったところですが、それができず、そこが積極的だったかどうかは、少しわからないところがあります」
あくまで森保監督は謙虚な姿勢を貫くが、後がない状況で采配に変化が生まれていたのは間違いない。サウジアラビア戦で「選手たちの努力を結果につなげられなかったのは自分自身の大きな反省でした」と悔やんだ指揮官も、オーストラリア戦の1勝で大きく前に進むことができたのではないだろうか。
(取材・文:舩木渉)
【了】