プレミアに変革をもたらしたベンゲル
「In Arsene We Rust」。アーセン・ベンゲル率いるアーセナルを支持する者の合言葉「アーセンを信じる」をもじり、「Trust(信じる)」を「Rust(腐る)」に変えたこのフレーズは、今季中に目にした中でも最も痛烈な見出しの1つだ。
この見出しが『ミラー』紙に登場したのは、ホームでのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦で、アーセナルがバイエルン・ミュンヘンに完敗した第1レグ(1-3)の翌朝。つまり、事実上の8年連続無冠が確定した翌日だった。
同日の『サン』紙による意見調査では、サポーターの過半数が監督退任を求めてもいた。プレミア無敗優勝の快挙は9年前の話。翌年のFAカップ優勝を最後に縁のないトロフィーへの欲望が、神を崇めるかの如く、ベンゲルを信じてきた人々の目をも曇らせたようだ。
ベンゲルほど、目に見えるトロフィーだけで評価すべきでない監督はいない。当人が「タイトル獲得と同等の成果」と語るCL出場は、プレミア王者として参戦した1998年から15年連続。決勝トーナメント進出も、今季で13シーズン連続だ。
その間、リバプールは09 年を最後にCLから遠ざかり、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシーは、グループステージ敗退を経験しているのだから、勲章と表現して差し支えないCL出場歴だ。
トロフィーとして具現化されない過去16年間の功績は、「欧州エリート」の資格だけではない。今では最新鋭の練習施設が当たり前のプレミアだが、先駆者はベンゲルのインプットを得たアーセナル。フルーツジュースでさえ糖分を意識して控えさせる選手の栄養管理は、練習後のビールが当たり前だったプレミア全体に影響を与えた。
チームには、近年のトレンド到来を待つまでもなく、ショートパス主体の攻撃的スタイルも持ち込まれた。前監督時代は、単調な守り勝ちにファンも眉をひそめるサッカーだったことを忘れてはならない。