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代表 12年前

繰り返された南アの悲劇 レ・ブルーはなぜ内部崩壊したのか【欧州サッカー批評 6】

『リーダー不在、規律なき“ラップ世代”… ピッチ外に潜むフランス代表の問題点に迫る』
南アW杯でのフランス代表の崩壊を詳細に記述した『レ・ブルー黒書』(ヴァンサン・デュレック著/結城麻里訳、講談社)の最後はこのように締めくくられている。新たなヒーローが誕生する。そして感動した試合を忘れずにいれば、いつかきっと南アのことを忘れることができる、と。しかし、前向きな希望とは裏腹に悲劇は繰り返されてしまった。EURO2012で仲違いを起こし、無残に敗れ去ったレ・ブルー。彼らに一体何が起こったのか。選手たちが発した言葉から、その内実に迫る。

text by 田村修一 photo by Kazuhito Yamada

ラップ世代と呼ばれる、サミル・ナスリ【写真:山田一仁】

ナスリの挑発「その口を閉じろ!」

 6月11日、ドネツク・ドンバスアレーナ。30分にジョレオン・レスコットのゴールでイングランドに先制されたフランスは、9分後にサミル・ナスリのミドルシュートで同点に追いついた。得点を決めたナスリは、右手人差し指を口の前にかざすと、スタンドのプレス席に向けて、それまで溜め込んでいた鬱憤を晴らすかのような、挑発的なパフォーマンスを繰り広げた。

「傲慢なゴール」(レキップ紙)と見出しを打ったように、メディアの側も黙っていなかった。フランス代表のEURO2012は、多少の緊張感を孕みながら、こうして幕を開けたのだった。

 たしかにナスリは、大会前から議論の対象だった。だがそれは、しばしば節度を欠く彼の態度に関してではなく、ローラン・ブラン監督が目指すプレースタイル――スペイン流のスピーディなパスサッカーと、ボールをキープしたがる彼のスタイルの相性についてだった。

 マスコミも世論もナスリのプレーに否定的で、イングランド戦直前にレキップ紙が行った調査では、彼の先発に反対する意見が、僅かだが賛成を上回った(51%対46%)。そうした論調が、ナスリ自身を苛立たせていた。

ラップ世代と呼ばれる新しい世代

 他方でフランス代表は、21戦無敗という前評判の高さとは裏腹に、決して一枚岩とはいえなかった。フランク・リベリとナスリがかつて険悪な関係に陥っていたことはブランも認めているし、カリム・ベンゼマはインタビューで、意識的にナスリの名前を挙げることを避けた。

 ベンゼマとナスリ。87年生まれ組(04年U-17欧州選手権優勝世代)の2人は、ラップ世代と呼ばれる新しい世代の選手たちである。大都市の郊外で生まれ育った、移民系の若者たち。同じアラブ系でも、ひと世代前のジネディーヌ・ジダンとはメンタリティがまったく異なる。

 たとえばジダンは、フランス代表を「僕のもう1つのクラブ」と言って憚らなかった。そしてジダンの持つ代表への愛着、帰属意識の強さは、多かれ少なかれ他のどの選手も持っている、代表の根本的な基盤だった。

 ラップ世代には、その意識はない。彼らは自分たちの行動原理だけに従って生きている。それが上の世代との軋轢を生み、フランス代表内でもしばしば不和が生じていた。

 その結果、規律と代表への忠誠心の欠如を危惧するレイモン・ドメネク監督(当時)により、彼らは南アW杯直前に代表から外されたのだった。ところがそのおかげで、クニスナ(=ナイズナ、選手全員による練習ボイコット事件)のスキャンダルを免れたのは、ちょっとした皮肉であった。そしてブランは、南アでのネガティブなイメージを払しょくするために、彼らをリベリとともにチームの主軸に据えたのだった。

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