【写真:Getty Images】
試合後の取材に応じる誰もが「今日のヒーローは彼」と口を揃えた。
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0-0のまま延長戦まで120分間を戦い抜いて迎えたPK戦。相手の2人目のキッカーが蹴ったボールを右に跳んで完璧にセーブしたGK谷晃生は、U-24日本代表を東京五輪の準決勝に導いた。
2021年7月31日のことを、谷は一生忘れないだろう。
「特別なことはないですけれど、最後までゴールライン上に足を残して、自分の直感を信じて、それに全力で跳ぼうという、それだけですね」
U-24日本代表のDFリベラート・カカーチェが左足で蹴ったPKに反応し、右に跳んだ。
「タイミングもばっちしでしたし、読み通りに当たったなという感じでした」
谷の頭には、4年前の苦い記憶がよぎっていた。2017年にインドで行われたU-17ワールドカップ、ベスト16まで勝ち進んだ当時のU-17日本代表はU-17イングランド代表と対戦した。のちに優勝することになるチーム相手と120分間の死闘を演じ、決着はPK戦に委ねられることに。
それまで必死にゴールを守ってきた谷だったが、PK戦では1本も止められず。イングランドの選手たちは冷静に全てのPKを決め、準々決勝に駒を進めた。
世界一のチームを倒すギリギリまで肉薄したことで、選手たちが初めて「世界と戦える」という自信を得たと同時に、勝利が目前で手の中からこぼれ落ちてしまった言葉に尽くしがたい悔しさを覚えた試合でもあった。
谷だけでなく、久保建英や菅原由勢など、当時インドでU-17ワールドカップに出場していた選手たちは、必ずと言っていいほど「キャリアの分岐点」として決勝トーナメント1回戦のイングランド戦を挙げる。現場で取材していた身としても、近くて遠い世界トップの存在を強烈に意識させられた記憶に残る1試合だ。
「僕自身、U-17ワールドカップの、あのベスト16で負けた悔しさというのがあったので、今日それを払拭するというかチャンスだなと思いましたし、落ち着いて入れましたね」
谷は「ようやく挽回するチャンスがきた」と燃えていた。そして、再び世界大会の決勝トーナメント1回戦でPK戦に。川口能活コーチからはニュージーランドの選手たちのPKのデータも見せられたが、興奮からか頭に入りきらず。1996年にアトランタ五輪で“マイアミの奇跡”の立役者となったレジェンドGKから授かった「お前の直感を信じてやれば、絶対にヒーローになれる」という言葉に従い、跳んだ。
「絶対にゴールをやらせないという気持ちが誰よりも強いとは思っています。その気持ちがそういう結果につながっているのかなと思います」
今大会はここまでわずか1失点。キャプテンの吉田麻也も、大会中に成長している選手の1人として谷の名前を挙げる。間違いなく安定感が増し、GKとしての信頼感は試合を追うごとに高まっている。
「ゴール前で本当に粘り強く。僕たち(=守備陣)は守るしかないんで。いかに攻撃陣に自分たちのリズムを取り戻すために守備がしっかり頑張って、絶対に点は取ってくれると思うので、そこを信じて守りたいと思います」
準決勝の相手は本大会直前の強化試合で対戦したU-24スペイン代表に決まった。互いに準々決勝で延長戦まで戦ったチームで、再び死闘の予感がする。過去の苦い記憶を払拭し、大きな壁を破った守護神・谷の貢献が日本のメダル獲得には不可欠だ。
(取材・文:舩木渉)
【了】