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吉田麻也の思いとどう向き合うべきか? 否定でも批判でもなく…「真剣にもう一度検討していただきたい」発言の真意

text by 舩木渉 photo by Getty Images

吉田麻也
【写真:Getty Images】


 キリンチャレンジカップ2021が17日に行われ、U-24日本代表はU-24スペイン代表と対戦して1-1で引き分けた。

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 試合直後にインタビューに応じたキャプテンのDF吉田麻也だったが、テレビ中継では放送時間に収まりきらず、最後の部分が視聴者に届かなかった。

 試合後のオンライン取材対応の中で、ある記者が「フラッシュインタビューの続きを聞きたい」と問うと、吉田は「これはあとで怒られますけど、いまそういう状況じゃないですか、実際、(アスリートが)どっちのコメントをしても叩かれるような状況は個人的に間違っていると思う」と前置きした上で訥々と語り出した。

「この大会を割り切ってやるにあたって、国民の税金がたくさん使われていると思うんですよ。なのに、国民が観に行けないというのは…。じゃあ、いったい誰のためのオリンピックなのかという気持ちがある。選手はもちろんファンの前でプレーしたいという気持ちがある。

やっぱり今日もそうでしたけど、残り10分とか苦しいときにファン・サポーターの方たちのエネルギーが僕らを助けてくれる。僕らはトップ・オブ・トップではないんで、そういう(ファン・サポーターの)助けを必要としているというのはあります」

 吉田が広く伝えたかったのは、大半の競技・会場で無観客開催が決まった東京五輪の現状に対する自らの意思だった。「エッセンシャルワーカーのみなさんが陰で戦っているのは重々理解しているし、オリンピックがやれるということだけでも感謝しなければいけない立場にあることは理解しています」という前提で、さらに思いを吐き出す。

「JOCの山下(泰裕)会長もオンライン壮行会のときにおっしゃっていましたけど、自分がちっちゃいときに観たオリンピックから影響を受けたし、ものすごく感動した。僕たちがやっぱり子どもたちにできることというのは、家の中に閉じ込めて友達とも会わず、事が過ぎるのを待つだけじゃないと思う。

もっともっとできることたくさんあると思うし、子どもたち……僕も娘がいるし、僕の娘はまだ4歳で、僕のプレーしているところを覚えていないと思う。そういう子どもたちに絶対いろいろなモノを与えられると思います。(自国開催で)時差がなく、オンタイムで試合を観られるというのは、僕が2002年のワールドカップのときにそうだったように、やっぱりものすごい感動と衝撃を受けると思うし、そのためにこそオリンピックを招致したのではなかったのかと個人的には思っています」

 一連の発言をどう受け取るかは、読み手の置かれた立場や主義、主張によって違うだろう。「それは違う」と反論もあるはずだ。

 だが、吉田の発言について考える時に重要なのは、「彼自身の思い」と「有観客開催の是非」を分けることではないだろうか。ただ無観客開催という決定や特定の主張に対しての「批判」や「否定」あるいは「非難」ではなく、東京五輪に参加する1人のアスリートとしての「意思表明」のためにU-24日本代表のキャプテンはリスクのある中で声をあげた。

「サッカーに限らず、毎日命を懸けて、人生を賭けて戦っているからこそ、この場に立てている選手たちばかり。正直、人生をかけて戦っている人たちばかりだし、マイナー競技で言うとオリンピックに懸けている選手たちは山ほどいる。何とかもう一度考えて欲しい。真剣に検討してほしいと思います」

「孫がオリンピックに出るところを観たいというおじいちゃんやおばあちゃんはたくさんいるだろうし。僕の家族もそうですけど、いろいろなモノを我慢して犠牲にしながら、ヨーロッパで戦う僕をサポートしてくれています。僕だけじゃなくて家族も戦っている一員なので、それ(選手の活躍)が(スタジアムで)観られないというのは、誰のためのなんのための戦いなんだろう。そこはクエスチョンですし、真剣にもう一度検討していただきたいなと心から願っていますし、皆さん(メディア)が発信してくれることを願っています」

 東京五輪の有観客開催再検討を願う吉田の意思を不快に感じる者がいるのは間違いない。自分の声が然るべき場所まで届かない可能性が高いことも理解しているだろう。それでも彼は東京五輪に出場する1人のアスリートとして、リスク覚悟で自らの思いを発信する価値や必要性を感じ、メディアを通して言葉にした。

 誰にとっても自分の人生、家族の幸せは大事だ。コロナ禍では当然、以前のような日常生活を送れなくなった人々も多い。それはアスリートにとっても同じこと。東京五輪に出場する彼ら彼女たちは、アスリートとしてのキャリアや人生だけでなく、自分に人生やお金をかけて支えてくれている人々や心から応援してくれる人々に対する責任も背負って日々戦っている。

 我々が日々の生活や将来のために仕事をするのと同じように、アスリートも生きていくために最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を必要としている。そんな思いから一連の発言に至ったのだろう。吉田が自らの意思をまっすぐに包み隠さず発信した勇気には最大限の敬意を表したい。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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