【写真:Getty Images】
U-24日本代表はまもなく開幕する東京五輪に向けて合宿を行なっている。
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静岡合宿最終日となった10日の練習では、興味深い場面があった。11対11のゲームの最中、10日からチームに合流したMF相馬勇紀が、対峙したDF酒井宏樹に対して果敢にドリブル勝負を挑んだ。
相馬はスピードで一気に抜ききったかと思いきや、最終的にはギリギリのところで酒井がストップ。欧州トップクラスで磨き上げてきた対人の強さを見せつけた。印象的だったのは、その直後に酒井から相馬に声をかけて、何やらドリブルについて助言を授けていたように見えた場面だ。
一体、何を話していたのだろう。その疑問をオンライン取材で酒井にぶつけると、会話の内容について次のように明かしてくれた。
「あのときは勇紀が僕のところから、抜きにかかったときに一歩かわしたので。そのままあの体格を生かして自分の下にもぐり込んで、1個前にボールを出してしまえば、ちょっと僕が勇紀に触ればファウルでPKになるから、そういう駆け引きは細かいところかもしれないけど、そこでPKになれば1点取れるし、フリーキックになればそこから1点生まれるかもしれない。そこの一瞬の判断というか、そこでちょっと遅くなったので僕もあのとき止めることができたんですけど、『勇紀だったらできる』と思って声をかけさせていただきました」
確かに相馬は酒井を抜ききれそうになった時、一気にギアを上げて切り込んでいくのではなく、サイドに押し出されるような形でボールを奪われてしまった。だが、フランスリーグで数多のアタッカーと対峙してきた経験を持つ酒井は、世界で戦うための「突破」の極意は細かい駆け引きや、相手の懐に入り込むような体の使い方に宿ると説く。
「リーグ・アンでプレーするドリブラーだったりアタッカーは、必ずあそこで僕の前に入り込んでくるので、(PKを与えかねないので)僕がファウルしてはいけない状況に追い込まれる。あれはたぶんドリブラーとしたら『いい方法』というか、いいドリブルのコースなんじゃないかなと思います」
身長166cmと小柄な相馬は、一瞬のキレや爆発的な加速を生かしたドリブルを最大の武器としている。界からのアドバイスを受け、さらに名古屋グランパスの一員としてAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の戦いも経験し、海外の選手を抜き去るイメージを膨らませている。
「あのシーンで言えば、『もっと内側にドリブルのコースを変えていった方がいいよ』とアドバイスもあって、『確かに。本当にその通りだな』と思いました。昨日は(深くまで)行けなかったので、もし次に(酒井と)対峙する機会があったら、コンディションも上がっていると思いますし、絶対に抜きたいなと思います」
相馬にとって6月のU-24日本代表の活動の際も「一番楽しみにしていた」のが、酒井とのマッチアップだったという。練習の中ではあるが、実際に1対1を挑んで、とてつもなく大きな学びを得た。
「特にACLを経験して、酒井選手も海外でプレーされていて、質とかの部分でなくて、形は似ているところがあると思っていて。日本のDFは抜かれない守備をしてくる印象で、(相手との)距離を離して、クロスを上げられても自分の後ろに行かせない守備が多い。
逆に酒井選手や海外でプレーしている選手は距離感をとにかく近くして、自分がボールを奪いにいけるだけの間合いで対峙してくる。逆に自分からしたら、距離感が近いほど抜きやすさはあると思う。(ボールを)取られる可能性も高まることはあると思うんですけど、逆に入れ替われる可能性も高くなると思うので、ちょっとの重心(移動)で(相手が)ボールを前に取りにきた瞬間に(タイミングを)外して、その後すぐに背後に入っていくことを意識したいです」
ACLのタイ遠征から帰国したばかりでコンディションも上がりきっていない状況に「初速の5メートルか10メートルのところで体がついていかない」感覚もあったが、「次こそは」とさらなる成長に目を向ける。
日本の2列目には相馬をはじめとしてドリブルを武器とする選手が多く、彼らの突破によってしたたかにPKやフリーキックのチャンスを得ていくことも、勝つためには重要になるだろう。ここぞの場面での思い切りの良さが勝敗を左右する。
「間合いを詰めてくると、入れ替わったときに後ろから引っかけられたらPKをもらえます。Jリーグだと抜かれない守備をしてくるので、最後はクロスで終わることが多いんですけど、ACLでも結構やっていたように、潜り込むドリブルというか、ペナルティエリアの、何ならゴールキックを蹴るゴールエリアのギリギリくらいまでえぐっていくドリブルを特に意識したいと思っています」
酒井の助言で成長のきっかけをつかんだ相馬は、12日のU-24ホンジュラス代表戦や17日のU-24スペイン代表戦、さらに東京五輪本大会でどう変わっていくだろうか。世界の壁を豪快に「突破」していく姿を楽しみにしたい。
(取材・文:舩木渉)
【了】