日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が今年9月に開幕する。東京五輪に向けてなでしこジャパンメンバーが21日にトレーニングキャンプをスタートさせた一方で、WEリーグに参戦する各クラブはプレシーズンマッチをこなしながら来る開幕に向けて準備を進めている。(取材・文:ショーン・キャロル)
9月に開幕する日本初の女子プロサッカーリーグ
WEリーグの開幕が迫り来る中、先週末は埼玉で行われた試合の観戦に赴いた。昨年のなでしこリーグ1部女王である三菱重工浦和レッズレディースとジェフユナイテッド市原・千葉レディースとの対戦だ。
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2つのチーム名(いずれは短くなってくれるといいが)をタイピングする手間はともかく、小雨交じりの曇り空の下、季節外れの寒さとなった駒場競技場で行われた試合は非常に楽しめるものだった。午前4時に起床し、イングランドとスコットランドのあまりにも慎重な一戦を耐え切った数時間後であればなおさらのことだ。どちらもしっかりとボールをキープして素早く動かし、常に積極的なプレーを試みようとしていた。
ジェフは前半に大澤春花が見事な2ゴールを挙げた。ホームのレッズも遠藤優がファインゴールを決めたが、前半を終えて1-2で追う展開。だが56分には佐々木繭のゴールで同点とし、試合をドローに持ち込んだ。
雨の中で行われた試合で、レッズは五輪代表である池田咲紀子、南萌華、塩越柚歩、菅澤優衣香の4人を、ジェフも新加入外国人選手のアレクサンドラ・チディアックとクインリー・クエザダを欠いていた。だが悪条件の中でも977人のファンが会場に訪れ、9月に開幕する日本初の女子プロサッカーリーグに向けた土台となる確かな基礎が築かれていることを示していた。
ジェフの猿澤真治監督は、チームのパフォーマンスに十分に満足した様子だった。昨年のなでしこリーグ1部を中位で終えたチームとしては、WEリーグ開幕への準備に明るい兆しが見て取れたと感じているようだった。
「去年、対戦をして一番勝てなかったチームが浦和でした。2失点をしましたが、自分たちにとっては自信になりました。プレシーズンマッチでは思うようにいかない部分もあり、この戦いができたことは千葉レディースにとっては大きいと思っています」と猿澤監督は語る。
世界に後れを取らないために…
実際のところ、日本の女子サッカーをリードする3つのチームとトップリーグの他チームとの間にはまだまだ一定の力の差が存在している。東京五輪に向けたなでしこジャパンの(バックアップ含め)22名のメンバーのうち16名が国内でプレーしているが、バックアップGKの平尾知佳がアルビレックス新潟レディースに所属しているのを除けば、全員がレッズとINAC神戸レオネッサ、日テレ・東京ヴェルディベレーザに所属する選手たちだ。3チームは主力を欠いているにもかかわらず、ここまでに行われたプレシーズンマッチは大半が接戦となり、大差がついた試合は数えるほどしかない。
チームごとに完成度に差があるという事実は、国際試合であれ国内試合であれ女子サッカーが世界的に乗り越えなければならない重要な課題のひとつである。これは、なでしこジャパンが今年に入って行った親善試合に大勝を重ねてきたことでも示されている。だが各連盟やリーグが直面するこの問題への取り組みを続けていけば、ゆくゆくはプレーレベルが均一化されていくと考えられる。
例えば欧州各国のプロリーグは着実な前進を遂げ、世界中から多くの選手たちを引きつけるようになってきている。遅れを取らないため、日本でも同様のリーグをスタートさせることが不可欠だった。
なでしこジャパンは追い風に?
WEリーグでは各クラブに対してプロA契約の選手を5名以上、プロB・C契約の選手(最低年俸270万円)を10名以上所属させることに加え、数年以内にU-18、U-15、U-12チームを保有するための短期プランを求めている。この確かな方針が長期的な発展へと繋がっていくはずだ。
「(日本で)初めてのプロリーグなので、いろいろな人に見てもらわないといけないと思います。なでしこリーグ時代も責任がともないましたが、それ以上に責任がある試合になりますし、まずはチームで勝利をすることはもちろんですが、見に来たいと思う試合ができるようにすることが大事かなと思います」。この日の試合で浦和の1点目を挙げた遠藤は、WEリーグの開幕に向けた自身の意識についてそう話していた。
その意識はWEリーグを応援するファン層の拡大に繋がる。さらに、オリンピックの開催が1年先送りされたこともリーグにとっては追い風となるかもしれない。
例えば浦和の菅澤は、試合後にファンに向けて行われたスピーチの中で、自分が代表チームにいるのはレッズの所属選手としてのパフォーマンスの結果によるものだと話していた。そしてその逆に、オリンピックで戦う選手たちの頑張りが、新たなリーグの急成長に向けた熱意を高めるきっかけになることを願っている。
2011年の女子ワールドカップも、女子サッカーへの関心を短期間で爆発的に高める結果をもたらした。なでしこジャパンが東京五輪でも一定レベルの成功を収めることができれば、その余韻は数ヶ月後まで持続し、WEリーグのキックオフに向けた大きな後押しとなるに違いない。
(取材・文:ショーン・キャロル)
【了】