スペイン人指揮官は、日本語の「状況次第」という言葉を好む
アジア連覇のかかった大会の決勝戦で、それまで出場していないGKを先発で送り出す。リスクと背中合わせの決断である。その選手が勝敗につながるミスを冒せば──そもそもフットサルのゴレイロは、勝敗に大きな影響を及ぼすポジションだ──起用した監督だけでなく当事者も批判を浴びる可能性が高い。
しかし、フットサル日本代表のミゲル・ロドリゴ監督にとっては奇策ではない。十分な裏付けを持った選手起用なのだ。
2009年春に代表監督の職に就いたミゲル監督は、日本人選手の意識改革に力を注いできた。チーム結成当初の選手たちは、監督の指示に忠実でありながら、指示を待つところが見受けられたからだった。
フットサルは選手交代が頻繁で、試合中に随時指示を授けることはできる。そうは言っても、コート上の状況は刻一刻と変わっていく。選手自身が素早く適切な判断を下さなければ、世界のトップクラスと伍して戦うことはできない。
「映画の字幕が遅れずに出てくるように、選手たちが自分で決断するために必要なソフトを、彼らの身体にインストールしていった」とミゲル監督は振り返る。
スペイン人指揮官は、日本語の「状況次第」という言葉を好む。パスを出すのであれば、受け手はどちらが利き足で、どちら側からマークされているのか。スコア、残り時間、日本と相手のメンバー、試合の流れ……あらゆる条件に照らし合わせたうえで、最適なプレーを導き出す。
スカウティングや監督の指示をそのまま当てはめず、「状況次第」で対応していくのだ。その瞬間の答えは、ほかでもないピッチのなかにあるからである。
主体的にプレーすることで、選手たちは応用力も磨いていった。個々の選手が一歩先、二歩先を考えてボールを動かしたり、追いかけたりすることで、予想外の局面の対処法が高まっていったのだ。同時に、一つひとつのプレーに対する責任感も増していった。