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Jリーグ 4年前

川崎フロンターレ、田中碧はなぜ試合の流れを変えられるのか? 後半45分間で果たした勝利に直結する大仕事【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Getty Images

明治安田生命J1リーグ第14節、川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌が16日に行われ、2-0で川崎が勝利した。後半早々に先制した川崎は、試合終盤に小林悠のゴールで試合の大勢を決めた。後半開始からピッチに立った田中碧は、重苦しい雰囲気が漂っていた川崎に活力を与え、45分の出場でチームを勝利に導いた。(文:元川悦子)

三笘薫対策が光ったコンサドーレ札幌

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【写真:Getty Images】

 5月12日のベガルタ仙台戦で終了間際にマルティノスの一撃を食らい、首位・川崎フロンターレはまさかの2-2の引き分けに終わった。4月29日の名古屋グランパス戦から続いていた連勝が3で止まっている。超過密日程による疲労蓄積が懸念され、「自滅に近いミスが多かった」と鬼木達監督もおかんむりだった。重苦しいムードを払拭するためにも、中3日で迎えた16日のコンサドーレ札幌戦はスッキリと勝ち切る必要があった。

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 しかしながら、札幌は昨季、本拠地・等々力陸上競技場で黒星を喫した唯一の相手。11月3日の一戦でアンデルソン・ロペスと荒野拓馬にゴールを許し、0-2で破れている。殊勲のゴールを挙げた2人は今回も健在で、東京五輪代表滑り込みを狙う田中駿汰、金子拓郎、高嶺朋樹の大卒2年目トリオもいる。侮れない敵なのは間違いなかった。

 案の定、川崎のスタートは重かった。知将ペトロヴィッチ監督の組織的プレスと効果的な攻撃の組み立てが奏功し、前半主導権を握ったのは札幌の方だった。

 特に光ったのが、田中駿汰らの三笘薫対策。2019年ユニバーシアード競技大会(ナポリ)優勝の盟友の特徴を熟知する彼は、深井一希らボランチと意思統一を図りながら、傑出した打開力を持つアタッカーに徹底的に食い下がった。

「薫と対峙した時にはまず縦に行かせないことを意識した。あとは前に出してワンツーとか3人目って形を作ってくるので、そこは絶対についていこうと。1対1の部分は比較的うまく守れたんで、自信になりました」と札幌の背番号2が手ごたえを口にした。川崎攻撃陣の急先鋒を封じたことで、昨季の再現を果たせそうな予感も漂った。

川崎に活力を与えた田中碧の投入

 その希望を打ち砕く“刺客”となったのが、後半から投入された田中碧だ。今季リーグ戦初先発だった移籍加入組の小塚和季と交代し、右インサイドハーフに陣取るや否や、持ち前の戦術眼を前面に押し出した。

「前半は前へ前へという意識が強すぎたので、後半はもう少しボールを握るところ、早く攻めるところの使い分けをしっかりやるように指示した。それができれば必ずゴールが生まれる」と鬼木監督はハーフタイムに語気を強めたという。田中碧は身を持ってそれを実践しようとしたのである。

「碧は攻守にハードワークできるし、テンポの違いを生み出せる。ドリブルで運ぶこともできる選手。自分たちは前半、守備がうまいこと行けていたけど、碧が入ってくるとちょっと行きづらくなるなという話はしていた」

 U-24日本代表活動で何度もボランチコンビを組んだ田中駿汰も警戒心を露わにしたが、彼のプレーは想像通りだった。時にはボールを落ち着かせ、高嶺らボランチの激しい寄せにあっても、決してひるまずに前へ出ようとする。強気の姿勢は前半通して重苦しい雰囲気に包まれた川崎に大きな活力を与えた。

 直後に生まれた三笘の先制点も田中碧のボール奪取が起点となった。田中碧がレアンドロ・ダミアンに預け、家長昭博に展開。右からのクロスに反応した旗手怜央がゴール正面に飛び込んでボールに触ると、ファーでフリーになった三笘へ。背番号18はGK菅野孝憲の脇を抜ける豪快な一撃で先制。これで膠着状態から一歩抜け出した。

「あそこにこぼれたのはアンラッキーな形。自分ももうちょっと工夫すれば防げた失点だったかなと。あそこで失点してチームの勢いも多少下がっちゃう部分があった。すごくもったいなかったと思います」

 三笘をフリーにしてしまった田中駿汰も悔恨の念を口にしたが、一瞬のスキが札幌の致命傷になったのは確かだ。それを演出したのが、田中碧だというのは、同ポジションで東京五輪を狙う田中駿汰や高嶺にとって、悔しさひとしおだったに違いない。

「勝って満足している選手はいない」

 その後も互角の展開が続いたが、両者とも決め手を欠いたまま、試合は終盤へ。4分が与えられたアディショナルタイムの3分が過ぎようとした頃、またも田中碧が大仕事に関与する。福森晃斗のロングフィードをジェイが競り、ジョアン・シミッチが頭で戻す。橘田健人が触ったボールを受けた背番号25は飛び出す小林悠を見逃さなかった。右足でプッシュしたパスが前線を走る背番号11に通り、そのままゴール。いったんはオフサイドと判定されたが、VARの助言によって覆った。2-0となったところでタイムアップの笛が鳴り響いたのだ。

「自分は勝手にオフサイドだと思っていました。みんなFKの準備をしていたし、最後に1点取って追いつく気持ちでいたんですけど、得点と言う形になった、時間的にもかなり厳しいなと感じたし、精神的に来る失点でした」と大卒ルーキーの小柏剛も落胆したが、それだけ小林悠の2点目は大きかった。こうして川崎はリーグ22戦無敗というJリーグ新記録を樹立。仙台戦でつまづきかけたところから完全復活してみせた。

「今は選手1人1人の意識が物凄く高いし、勝って満足している選手はいない。僕は長年フロンターレにいますけど、勝ちながら修正していく意識がここ数年で一番あるので、それが負けなしにつながっているのかなと思います」とダメ押し弾の小林悠も強調した。悪い時でも勝ちに持っていけるのが、独走できる王者の底力と言っていい。

 そのけん引役の1人が田中碧なのは、誰もが認めるところ。山根視来、三笘とともにここまでリーグ17戦全てに出ているのを見ても、鬼木監督の厚い信頼が伺える。今回は後半45分間のみのプレーだったが、巧みなゲームコントロールで試合の流れを引き寄せた。勝利に直結する仕事をこなしてしまうあたりは、やはりただ者ではない。

「最近は上から見ている感覚じゃないですけど、どうすればハマるのかっていうイメージがある程度、頭の中で計算できるようになっている」と3月のU-24日本代表活動でもコメントしていたが、全体を冷静に俯瞰できるからこそ、緩急を使い分けながら試合の流れを変えられるのだ。

 中村憲剛の賢さと稲本潤一のパワフルさを兼ね備え始めた田中碧。彼ならば、もしかすると欧州で成功を収めた長谷部誠越えも可能かもしれない。

(文:元川悦子)
●田中碧の勝利を引き寄せたプレーがこれだ! 川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌 ハイライト

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【了】

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