主導権を握ったアーセナル
トッテナムは前半唯一のシュートがゴールにつながっている。右サイドのガレス・ベイルからのクロスをセルヒオ・レギロン、ルーカス・モウラとつなぎ、エリク・ラメラがゴールを決めた。両足をクロスさせて蹴るラボーナは、ゴール右隅へと見事に決まった。
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先制したのはトッテナムだが、試合の主導権を握ったのはアーセナルだった。前半のボール保持率にそこまで開きはなかったが、前半だけでシュートを10本放っている。
この日のアーセナルは1トップにアレクサンドル・ラカゼットを置き、2列目には右からブカヨ・サカ、マルティン・ウーデゴール、エミール・スミス=ロウを並べている。ニコラ・ペペとピエール=エメリク・オーバメヤンはベンチスタートに。ミケル・アルテタ監督によると、オーバメヤンは規律違反を犯したらしい。
しかし、このメンバー起用が奏功した。ラカゼットとウーデゴールは相手の中盤2人へのパスコースを切りつつ、センターバックとの間合いを詰める。ウイングの2人はサイドバックをマンツーマン気味に監視する。
高い位置からはめにいくことでトッテナムから自由を奪った。絶妙なポジショニングと運動量を両立させるという意味では、ペペとオーバメヤンを使うより、彼らの方が都合が良かった。
致命傷となったベイルの右サイド
アーセナルは左サイドからチャンスを作っていた。37分にはキーラン・ティアニーのスルーパスを受けたスミス=ロウの折り返しを、セドリック・ソアレスが振り抜いた。シュートは惜しくもクロスバーを叩いたが、完璧に崩した場面だった。
ゴールはその約6分後。ライン間でボールを受けスミス=ロウからティアニーにパスを送る。グラウンダーのボールをゴール前に入れると、相手DFの前でフリーになっていたウーデゴールが左足を振り抜く。ボールは相手DFに当たってゴールネットを揺らした。
ポイントとなったのはトッテナムの右ウイング、ガレス・ベイルだった。ベイルは基本的に相手のセンターバックとサイドバックをけん制するようなポジショニングを取っており、トッテナムがリトリートする場面では一瞬プレスバックが遅れる。
ベイルの戻りが遅れるトッテナムの右サイドは、タンギ・エンドンベレがスライドしなければならない。それが一瞬でも遅れると、アーセナルのサイド2人をトッテナムはドハーティー1人で見なければいけない瞬間が生まれる。スミス=ロウは37分のシーンでその一瞬の隙を突いた。
アーセナルはサイドで数的優位を作り、ハーフスペースの深い位置を狙っていた。トッテナムのDFラインはゴール前のスペースを消していたが、その手前のスペースが空いてしまう。エンドンベレがサイドにつり出されれば、ピエール・エミール・ホイビュルクが1人で守らなければいけなかった。
ベイルはサボっていたのではなく、チームとしてカウンターに備えて攻め残りさせていたのだろう。右サイドに生まれた穴は、ベイル個人の責任ではない。トッテナムはベイルを起用する時点でそれは覚悟していたはずだったが、結果的にはそれが致命傷となった。
トッテナムは終盤の反撃も実らず…
アーセナルは64分にPKを獲得する。ラカゼットがこれを成功させて逆転に成功。ここまでのシュート本数は13対1でアーセナルが大きく上回っている。
1点を置くトッテナムは、残り約15分を10人で戦わなければならなくなった。負傷したソン・フンミンに代わって19分からピッチに立ったエリク・ラメラは、2枚のイエローカードをもらって退場処分となる。試合の大勢はそこで決まったかと思ったが、トッテナムはそこからチャンスを作っていく。
83分、ルーカス・モウラのFKをファーサイドでケインが合わせる。ボールはゴールネットに吸い込まれたが、惜しくもオフサイド。89分にはケインがFKから直接狙ったが、ボールはファーのポストを叩いた。
トッテナムは中央に人数を割き、シンプルにボールを入れた。ハリー・ケインやルーカス・モウラがファウルをもらい、セットプレーからチャンスをうかがう。しかし、前半のアーセナルがそうだったように、決定機はほんのわずかなズレによってゴールにならなかった。
白熱のノースロンドンダービーは2-1という僅差で決着がついた。終盤こそトッテナムは攻撃の形を見出したが、試合全体を見ればアーセナルのゲームだった。
(文:加藤健一)
【了】