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Jリーグ 4年前

マリノスは前田大然をどう起用すべきか? 驚異のスプリント「43回」に2得点、進化したスピードキングが凄まじい【コラム】

明治安田生命J1リーグ第2節が7日に行われ、横浜F・マリノスとサンフレッチェ広島は3-3の打ち合いを演じた。この試合で2得点を決めたマリノスのFW前田大然は、開幕からの公式戦3試合で様々な形で起用され、持ち味を存分に発揮している。では、今後どのように起用していくのがチームのために最適なのだろうか。(取材・文:舩木渉)

シリーズ:分析コラム text by 舩木渉 photo by Getty Images

驚異のスプリント「43回」

前田大然
【写真:Getty Images】

 スプリント 四十三度も ありぬべし。

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 驚くべき数字である。横浜F・マリノスのFW前田大然は、7日に行われた明治安田生命J1リーグ第2節のサンフレッチェ広島戦でスプリント数「43回」を記録した。81分に途中交代しているため、2分に1回以上のペースで時速24km以上の全力疾走を繰り返していたことになる。

「(スプリントを増やすことは)別に意識はしていないですけど、チームが勝つために何が必要かを考えて、守備のところもやっているので、無意識に、いまは勝手にできているかなと思います」

 スプリント43回はもちろん両チームの選手のなかで群を抜いていて、リーグ全体を見て今季最多の記録になっている。走行距離でも広島戦の前田は11.825kmを叩き出しており、90分間プレーしていたら12kmを超えていたはず。試合結果は3-3のドローだったが、前田は凄まじい運動量と強度を両立し、そのうえで2得点という会心のパフォーマンスだった。

 シーズン途中に加入した昨年は左ウィングという慣れないポジションにも苦しみ、リーグ戦は3得点と期待されたほどの結果を残せなかった。マリノスでの1年目を終えて「ハッキリ言って今年は不甲斐ない結果だったので、収穫は正直そこまでない」と悔しさを噛み締めていた前田は、「二桁得点」を目標に掲げて2021シーズンに入った。

 プレシーズンキャンプでは3トップの中央に入ることがほとんどで、ストライカーとしてポジション争いに挑むと見られていた。「真ん中の選手はゴールを取らないと試合に出られない」と覚悟を語り、「チームが求めていることをしっかりやったうえで、ゴールやアシストといった結果を残したいと思います」と最も得意とするポジションでのプレーに意欲を燃やしてもいた。

左ウィングで見られたプレーの変化

 ところが蓋を開けてみると、パフォーマンスの充実ぶりとは裏腹に起用法が定まっていない。

 Jリーグ開幕戦の川崎フロンターレ戦では2点リードされた後半開始からピッチに送り出されると、4-4-2の2トップの一角に入った。チームで2番目に多い「26回」ものスプリントを45分間で記録し、守備のスイッチ役として貢献したが、ゴールは奪えなかった。

 続くYBCルヴァンカップのグループステージ第1節では、2トップの一角として先発出場。マリノスはベガルタ仙台に1-0で勝利を収めたが、前田にゴールは生まれなかった。

 そして7日に迎えた広島戦は、4-2-3-1の左ウィングで先発起用された。昨年なかなか力を発揮しきれなかったポジションである。しかし、冒頭に述べた通り会心のパフォーマンスで勝ち点1の獲得に大きく貢献した。

 抜群のスプリント力や爆発的な加速力を、途中から流れを変えるためだけに使うのはもったいないと感じるプレーぶりだった。ポジションは同じでも、昨年とは動きが見違えるようだった。前田は広島戦で意識していたことについて、次のように語る。

「マリノスのウィングはどちらかと言うと(サイドに)張るんですけど、自分は張るのはあまり得意ではないので、自分のやりやすいようにどんどん中に入っていこうと思ったので、それがこういう結果(2得点)になったのかなと思います」

 再び左ウィングを任されることになって「昨年のようにやっていたらうまくいかない」と感じていた前田は、「うまく中に入りながら自分の良さを出そう」とプレーの判断基準を変えた。

 もともとスピードには優れているが、持ち味を最大限に発揮するには広いスペースが必要で、自らボールを持って仕掛けるようなプレーは不得手だ。昨季途中までマリノスで左ウィングの主戦を担っていた遠藤渓太のようにドリブルで相手ディフェンスを剥がしてクロスを上げるのではなく、前田のプレーの本質はストライカー的な背後への飛び出しや守備におけるハードワークにある。

 実際、広島戦では開始20秒もたたないうちに持ち味を生かしたシュートチャンスを作り出した。前田はオナイウ阿道がヘディングして空中に浮いたボールに反応して急加速し、相手選手を置き去りにするとゴール左から鋭いシュートを放った。

ポステコグルー監督も絶賛

前田大然
【写真:Getty Images】

 広島に2点をリードされて迎えた34分には、前田らしい飛び出しから今季初得点を挙げている。岩田智輝が中盤からややアバウトに相手ディフェンスラインの裏にロングボールを送ると、猛スピードで追いかけた前田はボールの落下点で相手ディフェンスに寄せられながら巧みにターンして前を向き、GKの動きも見極めてシュートをゴール右隅に流し込んだ。「相手のイーブンのボールをうまくコントロールできて、落ち着いて決められた」と本人も納得のゴールだった。

 さらに2-3で迎えた67分には、渡辺皓太の低いクロスにダイビングヘッドで合わせて値千金の同点弾。「全く中の状況を見ずに突っ込んでいった感じだったので、いいボールがきてよかった」と、2点目は無心で決めた。

「チャンスを作るところだったり、そういうところには顔を出せていると思うので、あとはゴール前の落ち着きが本当に大事になってくる」

 0-2で敗れたフロンターレ戦後に自らの課題について言及していた前田だが、以前から指摘されていた「落ち着き」の不足は明らかに改善されている。左ウィングで起用されてもサイドに張りつくのではなく、ボールや周りの選手の動きに合わせて臨機応変に中央のゴール前に顔を出すようになり、プレーの質が昨年と変わっているのは誰の目にも明らかだ。

 アンジェ・ポステコグルー監督も「本当にいいレベルでプレーできている。前田は今季出場した全ての試合においていい形で、いい内容でやってくれている」と躍動感あふれる背番号38のプレーぶりを絶賛していた。

「(前の試合までは)チャンスを作ってもなかなかゴールに結びつかなかった、そこだけだと思う。フロンターレ戦でも非常にいい仕事をして流れを変えてくれたし、ベガルタ戦でもいいパフォーマンスだった。それを続けたうえで、今日はしっかり2点を決め、いい働きをしてくれた。今は本当にいい状態ではないかと思う」

 では、前田を今後どのように起用していくべきなのだろうか。フロンターレ戦でも明らかだったように、守備のスイッチ役や強度を保証する重要な役割も果たせるだけに、チーム内における価値は高い。1試合で40回以上も爆速スプリントを繰り返せるタフさは唯一無二の武器だ。マリノスのスプリントキングが見せるような猛プレスやディフェンスを置き去りにするスペースへの抜け出しは、特徴の異なるオナイウ阿道には出せない魅力でもある。

前田の1トップ起用はありか?

 一方、左ウィングにはエウベルが復帰してきた。プレシーズンキャンプでは主力組の左サイドに入ることの多かった今季新加入のブラジル人FWは、前田と違って自らボールを持って前に運べる能力に長け、アシスト能力が非常に高い選手だ。

 フロンターレ戦やベガルタ戦のように「僕が一番やりやすい形」という2トップ起用もありうるのかもしれないが、そうなるとマルコス・ジュニオールという傑出したタレントの魅力を生かしづらくなってしまう。

 それぞれ武器や特徴の異なる質の高いアタッカーを数多く抱え、最適な組み合わせや起用法に悩めるというのは贅沢な話だが、答えを見つけないことにはチーム力を最大化できない。ポステコグルー監督も頭を悩ませているに違いない。

 前田の攻守における献身性やJリーグ屈指の爆発的なスプリント力を活かさない手はない。個人的には4-2-3-1の1トップに据えてみても面白いのではないかと感じている。マリノスの最前線はオナイウ阿道のように前線で基準点になれるストライカーが重宝されてきたポジションだが、仲川輝人、エウベル、前田の爆速3トップで前から相手に圧力をかけ続けるサッカーは、指揮官が言い続ける「自分たちのサッカー」に近づけるポテンシャルを秘めている。

 チャンスメイク力に長けるエウベルや仲川からのお膳立てを受ければ、前田も自らの武器を生かしつつ、より多くのゴールを決められるだろう。ボールを失った際のファーストプレス役としても、スキンヘッドの背番号38が最前線に立つ意味は大きい。

 もちろん昨季同様に左ウィングで起用するにしても、これまでのようにアウトサイドに固執するのではなく、広島戦のようなウィンガーストライカー的な振る舞いを許容することで、前田の武器をより効果的に引き出すことができるはずだ。

 今のマリノスは「自分たちのサッカー」を若干見失っているのではないかと感じる節がある。プレシーズンキャンプで取り組んできたことを公式戦では披露しておらず、今季の戦い方の軸となるものは昨年までに築き上げてきたベースの部分しかない。

 主力のほとんどが残留しチームの骨格が維持されているとはいえ、再びタイトルを獲得するためには2021年仕様の最強フォーメーションを見つけなければならない。

 今季の陣容で最良の起用法や組み合わせを探さねばならない選手が前田だけでないのも確かだ。まだまだ窮屈さを感じている選手がいて、個々の持てる力を組織力に最大限還元できるような状況は出来上がっていない。

 ピッチに立てば抜群のセンスと技術で確実に流れを変えてくれる渡辺や、Jリーグ屈指の実力者ながら出番に恵まれていない小池龍太など、チャンスに飢える者は数多くいる。所謂“サブ”に甘んじる選手たちもポテンシャルを最大限に発揮できる起用法や組み合わせを見出せなければ、圧倒的な強さを誇る昨季王者フロンターレを打ち破り、再びJリーグの頂点を極めるのは難しい。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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