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Jリーグ 4年前

「ところが一転、驚愕の変貌を遂げた」。川崎フロンターレ、“止めて蹴る”の終焉…開幕戦で披露した姿とは?【データアナリストの眼力(3)】

“異端のアナリスト”庄司悟は3/8発売の『フットボール批評issue31』で、J1・J2・J3全クラブのコンセプトを信条である「一枚の絵」で浮かび上がらせた。今回は発売に先駆けてJ1開幕戦(川崎フロンターレ対横浜F・マリノス)を「一枚の絵」で示しつつ、早くも王者フロンターレの2021年度版コンセプトを暴いてみせた。連載全3回、今回は第3回。(文:庄司悟)

川崎フロンターレが開幕戦で見せたものは?

 2021年のJリーグはターニングポイントになるかもしれない。それほどまでに、2月26日に行われた開幕戦における王者・川崎フロンターレの変貌ぶりは目を引くものだった。それは「止めて・蹴る」からの脱却、いや、風間八宏前監督の呪縛からの解放と言ってもいいかもしれない。

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 核心に入る前に、ある数字を見ていただきたい。川崎163・横浜169、川崎150・横浜157。これはフロンターレが昨年の第14節と第30節で対戦した横浜F・マリノスとのスプリント数比較である。では、開幕戦のスプリント数はと言えば驚愕の川崎211・横浜212――。

 筆者は3月8日発売の『フットボール批評issue31』に、J1と世界との決定的な差は、J1には「走りながら」が圧倒的に不足していると書いた。ところが、開幕戦のフロンターレはその劇的なスプリントの増加が示すように、昨年とは明らかにコンセプトを変えてきた。

 例えば、キックオフ直後の6人による“投網”のようなプレッシング。その形はまるで2013/2014シーズンでペップ・グアルディオラが率いるバイエルン・ミュンヘンがピッチに出現させたヘキサゴンのようでもあった。

 さらに、前半23分33秒に三笘薫が左サイドでボールを受けてから他の5人が一気にギアを上げ、Jリーグでは滅多に見ることのできない「6人走り」をも披露といった具合である。そもそも、200本超えのスプリントは一人が汗を掻いて実現できるものではない。20本超えの選手が5人もいたように、1アクションで6スプリントをさせるような、何か「目指していたもの」がフロンターレにはあったという証拠であろう。

 そこで、パス成功数(縦軸)とスプリント数(横軸)を掛け合わせた「一枚の絵」を見てもらえば、鬼木達監督が目指すコンセプトがほのかに見えてくる。

「核」の変化。鬼木監督が狙うコンセプトとは?

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 同座標軸は2020年J1のデータで、昨年のフロンターレは左上のゾーンに位置していた。ところが、同座標軸に開幕戦のフロンターレを入れ込むと、右下のゾーンへ大移動を遂げているではないか。一気にスプリントを増やした一方で、パス成功数(2020年の平均約530本)が開幕戦は380本に減少していたのだ。

 この150本の差は一体、何を意味するのであろうか?

 2021年はむやみにパス成功数を増やす必要はない。「止めて・蹴る」から「走りながら・蹴る」へ――つまり、スプリントを一斉にかけたところへの決定的なパス=「インテンシティの高いパス」に絞り込んできたような気がしてならない。

 シーズンを通して「インテンシティの高いパス」だけを昨年並みに増やしていけば、自然と右下のゾーンから右上のゾーンへ移動する。そうなった時、フロンターレはもはや無敵である。もちろん、そう簡単なことではないが……。

 思えば、鬼木監督にとってのフロンターレの「核」も変わりつつある。昨シーズン限りで風間前監督の継承者・中村憲剛が引退。一方で、開幕戦でスプリント20本超えを果たしたのは三笘に、脇坂泰斗、旗手怜央……そう、奇遇にも2017年のユニバーシアード優勝メンバートリオである。

 この3人は開幕戦の左サイドで幾度となくトライアングルを作り、チャンスを創出していた。鬼木監督が水を得た魚のように映るのは、この「核」の乗り換えをきっかけとして、いよいよフロンターレに巣くっていた亡霊「止めて・蹴る」の次なるコンセプトに着手したからなのかもしれない。

 鬼木監督が標榜するコンセプトが「走りながら・蹴る」かつ「インテンシティの高いパス」だとすれば……。Jリーグもいよいよ世界と同じ方向に舵を切ったということになる。

(文:庄司悟)

庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ。1974年の西ドイツW杯を現地で観戦し、1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現在はSportec Solutionsに社名を変更し、ブンデスリーガ公式データ、VARを担当)と提携。ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSの技術をもとに分析活動を開始

31号_表紙_05

『フットボール批評issue31』


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Jクラブにとってコンセプトの5文字はもしかしたらタブーワードなのかもしれない。クラブのコンセプトをひけらかすことは、すなわち“秘伝のレシピ”の流出を意味する。もちろん、これはコンセプトという壺にタレが脈々と継ぎ足されているクラブに限った話ではあるのだが……。
コンセプトを一般公開できないとなれば、こちら側が様々な手法を使って分析していくほかない。なぜ、コンセプトの解剖にこれほどまでに執着するのかと言えば、抽象的にJリーグを眺める時代は終わりにしたい、という願望からである。そう、本質の話をしよう、ということだ。
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【了】

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