指揮官が香川を獲得した理由は?
香川真司がようやくピッチに帰ってきた。
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現地7日に行われたギリシャ・スーパーリーグ第21節、アポロン・スミルニ戦。今冬、PAOKテッサロニキに加入した香川は、3日のカップ戦でギリシャ・デビューを飾り、このアポロン戦でリーグ戦初のベンチ入り。そして出番が回ってきたのは、後半に入って62分のことだ。スコアは1-1だった。
前半、PAOKは[4-2-3-1]の布陣でスタート。トップ下に10番タイプを置くスタイルである。今回のアポロン戦のトップ下で先発したのは、アムル・ワルダ。移籍市場専門サイト『transfermarkt』によると本職は左サイドのようだが、このエジプト代表MFの前半のプレーを観ると、なるほどパブロ・ガルシア監督が香川を獲得した理由と、背番号23を背負う日本人MFに求める役割が見えてくる。
その役割を端的に言ってしまうと、“クラシカルな10番”ということになる。時にボランチの位置まで下がって中盤を広く動き、サイドでのダイレクトプレーなどを織り交ぜ、ボールに多く触ってゲームを組み立てる。そしてチャンスを演出し、得点に関与する。特筆すべきことがあるわけではなく、シンプルに10番のプレーだ。実際、PAOKに先制点をもたらしたのはワルダだった。
29分、右サイドからのクロスを相手のDFがクリアすると、そのボールを7番オマル・エル・カドゥーリがボレーシュート。打ち損なってワンバウンドし高く上がったボールを、さらにゴール前でワルダが左足でボレー。ゴールの右に決めた。バウンドの高さは違うが、2013年のコンフェデレーションズカップで香川がイタリア相手に決めた得点を少し彷彿とさせるゴールだ。
こうした10番タイプのプレーに加え、ギリシャの中では強豪のPAOKに対して引いてくる相手のブロックの間でパスを受けてチャンスを作り出すことも、香川には求められるだろう。本職が左サイドということもあってか、前半のプレーを見る限り、ワルダはライン間でボールを引き出すことは得意ではないようだ。
そして何より前半は、PAOKがボールを保持して1-0で折り返したものの、チームとして攻撃の形を創れていたわけではなかった。まさに攻撃の中心選手としてゲームをオーガナイズすることが、ガルシア監督が香川を獲得した理由と、欧州での経験が豊富な日本人MFに求める役割なのだろう。
味方との連係に磨きがかかれば…
後半に入ると、PAOKペースだった前半とは様子が一転。50分にショートカウンターを食らってPKを与え、同点に追い付かれると、少しずつアポロンのペースに。少し嫌な流れの中で、ガルシア監督は、香川に声を掛けた。62分、背番号23がピッチに送り出される。ポジションはトップ下。それまで同ポジションを務めていたワルダは、左サイドに回っている。
ピッチに入った香川は、周囲に積極的に指示を出しつつ、ボックスの手前を左右に動いて、ライン間でボールを引き出す。右サイドでSBヴィエリーニャと何度かパス交換をして、PAOK全体を前に押し上げる。
69分には、守りから攻への切り替えの中で、左前方のワルダに素早くパスを送り、同選手のシュートチャンスを演出。左後方に下がってサイドチェンジを見せる場面もあったが、攻撃のイマジネーションや視野の広さでは、このPAOKの選手たちの中で抜きんでていると言えそうだ。
そのワルダとは早速、信頼関係が出来上がっているようである。71分にはボックス内の左でエジプト代表MFからパスを受けた香川が、アドリアン・ペレイラとのワンツーからシュートチャンスを迎え、その直後には、今度は日本人MFからボックス内の左で浮き球のパスを貰ったワルダが、シュートを打っている。
いずれにせよ、香川が中央でプレーしたPAOKは、74分にはボール支配率で75%を記録し、試合の主導権を取り戻した…かに見えた。81分、CKからの一連の流れで、アポロンに左サイドを細かく繋がれて崩され、逆転を許してしまう。PAOKは88分にCKからスヴェリール・インガソンが押し込んで、辛うじて同点に持ち込む。そのまま試合終了の笛は鳴り、格下相手に2-2のドローで終わった。
このアポロン戦では、およそ30分間のプレーだったが、今後のPAOKで香川が中心選手となっていくのは間違いないだろう。ワルダを始めとする周囲の選手との連係に磨きがかかってくれば、PAOKの選手たちだけでなく、香川のゴールのチャンスも増えてくるのではないか。
まずはきっちりプレーオフ進出を決め、ギリシャ第二の港町のチームを、ヨーロッパリーグ(EL)、引いてはチャンピオンズリーグ(CL)という欧州の舞台に導くこと、それがガルシア監督が10年以上欧州を渡り歩いてきた香川に求める役割なのだろう。
(文:本田千尋)
【了】