ミランが手渡した2人の頭脳
【写真:Getty Images】
カルロ・アンチェロッティ監督の下で、二度目のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝を成し遂げた次のシーズン(2007/08)、UEFAスーパーカップとFIFAクラブワールドカップを制した。エースのカカはバロンドールを受賞している。しかし、このシーズンは転落の始まりだった。
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セリエAは5位とふるわず、08/09シーズンはロナウジーニョ、デビッド・ベッカムが加入したが3位に終わる。サイクルは終わり、クラブの象徴だったパオロ・マルディニが引退、アンチェロッティも辞任した。
レオナルド監督が指揮を執った09/10シーズンも3位。カカがレアル・マドリーへ移籍している。新たなサイクルを作るべき10/11シーズン、マッシミリアーノ・アッレグリ監督が就任し、03/04以来のセリエA優勝を成し遂げる。ズラタン・イブラヒモビッチ、ロビーニョ、アントニオ・カッサーノ、マルク・ファンボメルを補強してチームのテコ入れに成功した。
アッレグリ監督は戦術の引き出しも多く、さまざまなシステムを使っていたが十八番は4-3-1-2だ。シルビオ・ベルルスコーニ会長のお気に入りでもあった。
アッレグリが少し変わっていたのは、トップ下に従来の10番タイプを起用していないところだ。ケビン=プリンス・ボアテングがレギュラーだった。アッレグリはユベントスでも同じシステムを採用しているが、そのときのトップ下はアルトゥーロ・ビダルである。ボアテングとビダルはともに運動量があってアグレッシブなMFだ。
アッレグリ監督のミランは再び黄金期を迎えるかと思われたが、ユベントスが大きな壁となって立ち塞がる。11/12から9シーズン、スクデットはユーベに独占されるのだ。
きっかけはアンドレア・ピルロの移籍だった。負傷が長引くピルロを見限ってユーベに放出してしまったのだが、ピルロはユーベで復活して優勝の原動力となる。アッレグリも14/15からユーベを率いて連覇を継承。ピルロとアッレグリ、2人の頭脳をライバルに渡してしまったのはミランにとって痛恨だったといえる。
ベルルスコーニの撤退と長いトンネル
【写真:Getty Images】
さらに財政悪化が追い打ちをかけた。イブラヒモビッチ、チアゴ・シウバの攻守の中心がパリ・サンジェルマンへ移籍してしまう。フィリポ・インザーギは引退、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、アレッサンドロ・ネスタ、クラレンス・セードルフ、ファンボメル、ジャンルカ・ザンブロッタのベテランも放出。財政悪化もあって世代交代を断行したわけだが、若手がそこまで育っておらず12/13シーズンのセリエAは3位に終わる。
13/14シーズンは、フロント内部の権力争いからクラブは泥沼状態に陥る。アッレグリ監督が解任され、マウロ・タソッティが監督に昇格するが、まもなくブラジルでプレーしていたセードルフを監督に迎える。冬の市場で本田圭佑が加入したが、すでにクラブは沈みゆくタイタニック号の様相を呈していた。
14/15はフィリポ・インザーギ監督が指揮を執ったが10位。前年の8位からさらに順位を下げた。この時期のミランにかつての面影はない。ベルルスコーニは撤退を始め、株式の48%を手放した。
15/16、シニシャ・ミハイロビッチ監督からクリスチャン・ブロッキ監督に交代して7位。16/17、ついに中国の企業グループが99.93%の株を取得。ベルルスコーニはミランから完全に手を引いた。このシーズンはヴィンチェンツォ・モンテッラ監督で6位だった。
17/18は意欲的に補強に乗り出し、レオナルド・ボヌッチ、フランク・ケシエ、ハカン・チャルハノールらが加入。しかし、オーナーは債務不履行となり、米国ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが株を買収。チャイナ・ミランはわずか1年で終了となった。
新オーナーは投資会社としての実績はあってもサッカーに興味があるようには見えず、先行きの不透明感は否めない。フィールド外が大荒れだったこのシーズンはガットゥーゾ監督に交代して6位。
続く2シーズンも5位、6位だったが、コロナ禍で中断のあった19/20の後半に復活のきっかけをつかむ。冬のマーケットで獲得したイブラヒモビッチの大活躍があった。
(文:西部謙司)
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