「ポケット」の攻略
バーンリーはいつも通り、4-4-2の布陣でブロックを築いた。シティの攻撃を守り抜こうとしたが、その牙城は儚くも3分で崩れてしまった。
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グアルディオラは3人のセンターバックを起用。守備時はいつもどおり4-3-3だが、ボールを持つとジョアン・カンセロが右サイドバックからインサイドハーフに顔を出し、3-1-3-3へと変形する。
ゴール両脇のゾーンは「ポケット」と呼ばれている。ハーフレーンにあるペナルティーエリア内のこのスペースにボールを運ぶと、そこからゴールが生まれやすいというデータがあるという。この位置からゴール前にパスを入れると、DFは後ろ向きでFWとボールに対応しなければならないし、GKはシュートとクロスの両方に備えなければならない。相手は非常に困難な対応に迫られる。
3分の先制シーンはラポルテからロングパスを受けたラヒーム・スターリングを起点に始まった。左サイドでボールを収めたスターリングは相手を引き付けながらカットインし、同サイドのポケットに侵入するベルナルド・シウバにパスを送る。ベルナルド・シウバが放ったシュートはGKの正面だったが、こぼれ球をガブリエウ・ジェズスが頭で押し込んだ。
ベルナルド・シウバは斜めの動きで、右センターバックの死角からDFラインの裏を取った。左センターバックはベルナルド・シウバのカバーに走り、ゴール前にはジェズスと左サイドバックの1対1の状況が生まれる。ジェズスの背後からはリヤド・マフレズが詰めていた。
古典が廃れない理由
2点目は右サイドから。マフレズがサイドで相手を引き付けると、イルカイ・ギュンドアンがポケットでスルーパスを受ける。素早くゴール前にグラウンダーのボールを入れると、スターリングがゴールに押し込んだ。
あらかじめ動きが決められた攻撃はセットオフェンスと呼ばれている。ギュンドアンはパスを受けてから一度もゴール前を見ていない。何度もゴールを奪ってきたこの形は阿吽の呼吸ともいえるが、バスケットボールやハンドボールのようにパターン化されている。
結果的にオフサイドとなったが、57分にもポケットからのクロスでゴールネットを揺らしている。1トップのジェズス、ウイングのスターリングとマフレズ、そして2列目のベルナルド・シウバ、ギュンドアン、カンセロと、入れ替わり立ち代わりでこのポジションに侵入していく。この動きにバーンリーのDFラインは翻弄され続けた。
ケビン・デ・ブライネとセルヒオ・アグエロがいなくても、シティの得点力が落ちることはない。役割を積極的に入れ替えることで相手を翻弄できるのは、それぞれの選手たちがお互いの役割を深く理解しているからだろう。
サッカーという文脈の中で「古典的」という言葉はネガティブなニュアンスがあるが、落語のように良さが廃れない古典もある。ポケットを攻略する形は古典的だが、その威力は簡単には廃れない。廃れない古典は普遍性を持ち合わせている。
さらなる高みを目指すグアルディオラ
シティは21試合目にして13度目のクリーンシートを達成した。連覇した17/18、18/19シーズンはそれぞれ18回、20回で、今季はそのペースを大きく上回る。ルベン・ディアスという新たなディフェンスリーダーを迎え、ジョン・ストーンズが高いパフォーマンスを見せている。今季の守備陣はこの5年間で最も強固と言えるかもしれない。
バーンリー戦のボール保持率は75%に迫り、800本を超えるパスを記録した。相手には2本しかシュートを許さなかったが、グアルディオラが満足することはない。
全体的なパフォーマンスについては称賛しつつも「いつもよりシンプルなボールを失っていた」と課題を上げた。一方で、「私が心配していて、選手たちに話すのはそれだけ」とも話している。チームはかなりいい状態で試合に臨めているようだ。
5シーズン目の指揮を執るのはグアルディオラにとって初めての経験だ。苦しい時期もあったが、確固たる哲学と継続性、そして勝利を渇望するモチベーションでチームを改善させ続けている。グアルディオラの辞書にマンネリという言葉は存在しないようだ。
(文:加藤健一)
【了】