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幅を取って崩そうとするマンC
口火を切ったのは、らしからぬ“パワープレー”だった。1月17日に行われたプレミアリーグ第19節。昨年12月19日のサウサンプトン戦以来、年末年始にかけて公式戦8連勝とグッと調子を上げてきたマンチェスター・シティは、ホームにクリスタル・パレスを迎える。
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試合は序盤から、[4-5-1]の守備陣形で構えてきたパレスに対して、シティがボールを保持する展開。敵将のロイ・ホジソン監督が、[5-4]ではなく2列目を厚くする[4-5]のブロックを構築してきたのは、まず中央の3枚でバイタルエリアに蓋をして、シティの3トップを軸とした連動性による崩しを封じようとしつつ、ペップのSBがインサイドにポジションを取る傾向があることを意識してのことだったのだろう。
そうしたパレスの守備ブロックに対して、サイドチェンジを織り交ぜながら、シティは幅を取ってボールを動かしていく。大まかな傾向として、右SBのカイル・ウォーカーはやや下がり気味のポジションを取ったのに対して、左SBのオレクサンドル・ジンチェンコは、ライン間、タッチライン際、中盤の底と流動的に動いた。
ジンチェンコが内側にいる時は、外側にラヒーム・スターリングがポジションを取る。逆にウクライナ代表SBが外側にいるときは、イングランド代表MFが内側にポジションを取る、といった具合である。
23分の場面では、そこにイルカイ・ギュンドアン、トップのガブリエウ・ジェズスも近寄ってパレスの守備ブロックを横にスライドさせると、「6番」ポジションのフェルナンジーニョがジェズスに縦パスを入れる。ジェズスが落としたボールを、ギュンドアンは逆サイドのケヴィン・デ・ブライネに送った。パレスをスライドさせて開けようとした背後のスペースをベルギー代表MFで突こうとしたところに、シティの偶然性に頼らない戦術的意図が垣間見える。
疑似パワープレー
もちろんサッカーにおいて生まれるゴールは、全てが戦術的意図を持ったプレーの結果ではなく、偶然性に頼ることも多い。26分にシティは、デ・ブライネのクロスに合わせたジョン・ストーンズがヘディングで先制点を決めたが、CBのストーンズがなぜボックス内にいたのかというと、その前にCKがあったからである。
セットプレーのために上がってきたストーンズが、たまたま残っていたことで、言わば“疑似パワープレー”の状況が生まれた。そのチャンスをデ・ブライネは瞬間的な判断で逃さなかった。
昨年11月のトッテナム戦で痛い目を見たように、戦術的な意図を持ちながらブロックを構築する相手を美しく崩すことは、いかにペップと言えど簡単ではないだろう。一方でペップの美学からすると到底受け入れられるものではないが、時として“パワープレー”に、どん引きの相手を戦術的な駆け引き抜きに一発で破壊する威力もあるのも事実。
もちろん先制点を奪ったストーンズは流れの中で意図して上がったわけではないし、現在の欧州で意図的にパワープレーを使う監督も、滅多にお目にかかることはない。しかし、このパレス戦の3点目も、CKからルベン・ディアスのヘディング、こぼれ球をストーンズが蹴り込んで決めているように、両CBの破壊力で奪っている。
意図的にパワープレーを使うかはともかく、少なくともセットプレー時のCBの得点力を向上させていけるかどうかが、今後、特に一発勝負のCLの決勝ラウンドを勝ち上がる上で重要な意味を持つのではないか。
このパレス戦では、ストーンズの破壊力だけでなく、26分に横パスを奪って仕掛けたスターリングや、56分にボックスの手前で奪い返してミドルを決めたギュンドアンなど、ショートカウンターの意識の高さも目立った。瞬間的に強度を上げて獰猛に襲い掛かり、陣形が整っていないパレスを粉砕しようとする姿勢も、一種の“パワープレー”と言えるのかもしれない。
芸術的な連動性+動物的な破壊力――。クリスタル・パレスを4-0で一蹴したマンチェスター・シティは、対戦相手を“美しく叩きのめすチーム”だった。
(文:本田千尋)
【了】