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南野拓実、クロップの意図を汲んだプレーとは?奇妙な“トレーニング・マッチ”で得た収穫【分析コラム】

FAカップ3回戦、アストン・ヴィラ対リバプールが現地時間8日に行われ、1-4でリバプールが勝利した。南野拓実は公式戦3試合ぶりに先発し、チームの2点目をアシスト。下部組織の選手で構成されていたアストン・ヴィラ戦の勝利は、リバプールにとっては収穫となった。(文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

負けが許されないトレーニング・マッチ

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【写真:Getty Images】

 急遽組まれたトレーニング・マッチ、のようなものだったのかもしれない。現地時間1月8日に行われたFAカップの3回戦のアストン・ヴィラ戦。ユルゲン・クロップ監督は、試合後に次のようなコメントを残した。

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「自分の人生の中でこのような類のチャレンジをしたことがなかった。対戦相手についてアイデアが全くないんだ」

 今週の検査で多くの選手、スタッフが新型コロナ・ウイルスの陽性反応を示した影響で、アストン・ヴィラはU-20とU-23の選手たちでメンバーを編成した。混成チームの指揮を執ったのはU-23のマーク・ディレイニー監督である。当然、リバプールは試合前に相手の特徴をまとめたビデオを使ったミーティングをすることもできない。

 それでも相手はユース年代のチームである。練習試合のような光景を見た誰もが、リバプールが勝って当然だと思うだろう。しかし、試合自体はFAカップというれっきとした公式戦である。言うなれば、今回のアストン・ヴィラ戦は、負けが許されないトレーニング・マッチ、といったような奇妙な試合だった。

大人のリバプールと「キッズたち」

 よって、と言っていいのかは分からないが、リバプールは4分と早い時間帯にサディオ・マネが先制した後でも、7-0で快勝した昨年12月19日のクリスタル・パレス戦のようなゴールラッシュを見せることはできなかった。

 クロップ監督が「キッズたち」と表現したアストン・ヴィラを相手に、圧倒的にボールを保持しながら、なかなか追加点を奪えない。圧倒的にボールを保持するということは、プレッシング、ゲーゲンプレッシングというリバプールの強みをかえって出しにくい状況でもある。また、相手が未知で強度が低かったため、普段のリーグ戦のようなインテンシティで試合に臨むのは難しかったかもしれない。

 前半、少なからずリバプールは不安定な姿を見せた。27分、ファビーニョの不用意なボールロストからショートカウンターを許すと、40分には、一本のパスでルイ・バリーにリース・ウィリアムスが振り切られ、同点に追い付かれてしまう。あのリバプールを相手にゴールを決めた「キッズたち」は、ベンチからも選手が次々と飛び出してきて、まるで青春映画の1コマのような喜びようである。

 しかし、後半に入ると、リバプールの選手たちは、大人のフットボールを「キッズたち」に思い知らせることになる。熱血漢のドイツ人監督は、ジョーダン・ヘンダーソンに代わってチアゴ・アルカンタラを投入。相手にとってより危険なパスを出せるスペイン代表MFをピッチに送り出した。

 もっとも、試合後のクロップ監督のコメントによれば、ヘンダーソンが前半の45分、チアゴが後半の45分をプレーするというこの交代は、試合前に決まっていたとのことである。このことからも、リバプールの指揮官が今回のアストン・ヴィラ戦を半分はトレーニング・マッチと捉えていたことが伺える。

指揮官の意図を汲んだ南野拓実

 中盤の底でチアゴが攻撃のタクトを振るうリバプールは、前半は無難なバックパスが目立った南野拓実がボックス内に侵入し始める。49分、ゴール前でサラーからパスを受けてシュートを放った日本代表FWは、57分には、ボックスの右の角の内側でマネからボールを引き出し、リターンパス。ここはマネと噛み合わなかったが、南野が前線に絡んで少しずつチャンスを演出し始める。

 すると60分、今度は右サイドからドリブルで入ってきたサラーが南野に預けると、日本代表FWは中央手前のジョルジニオ・ワイナルドゥムにパス。このボールをオランダ代表MFが右足インサイドでゴールの右隅に押し込んで、同点に追い付く。試合後のコメントによれば、クロップ監督は南野を「ラインの間で10番よりのポジション」で起用したとのことだが、後半はその意図に合ったプレーを見せたと言えそうだ。

 そこからの5分間でさらに2ゴールを奪って、一気に「キッズたち」の夢を壊したリバプール。終わってみれば、当然と言えば当然なのだが、4-1と快勝した。

 もっとも、1得点に留まった前半を振り返ると、やはりポゼッション時のアイデアという点で苦労する傾向があり、そういった意味でチアゴの創造性が後半戦のカギとなっていくのかもしれない。今回のFAカップ3回戦は、そんな収穫があった、アストン・ヴィラの「キッズたち」との奇妙なトレーニング・マッチだった。

(文:本田千尋)

【了】

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