ミランに挑むかつてのスターたち
かつて、ミランの黄金期を支えたスターたちが、指揮官となって首位ミランに挑んでくる。前節ではフィリッポ・インザーギ率いるベネヴェントと対戦。退場者を出したミランは24本のシュートを浴びながらも無失点に抑え、2-0の完封勝利を収めている。
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そして、この日の相手はアンドレア・ピルロ率いるユベントス。勝ちきれない試合が多く、首位ミランと離されていたものの、ミランにとって難しい相手であることは間違いない。
11月下旬に太ももを痛めたズラタン・イブラヒモビッチは離脱が続いている。12月に全体練習に合流したものの、異なる箇所を負傷して再び離脱。ステファノ・ピオーリ監督はこの試合に先駆けて「イブラヒモビッチのケガは良くなってきているが、彼はまだ試合に出ることはできない」とコメントしている。
さらに、アンテ・レビッチとラデ・クルニッチには新型コロナウイルスの陽性反応が確認された。イスマイル・ベナセルやアレクシス・サーレマーカーズは負傷離脱中で、前節で退場となったサンドロ・トナーリは出場停止に。ユベントスもフアン・クアドラードとアレックス・サンドロの両翼に新型コロナウイルスの陽性反応が確認された。ビッグマッチは多くの欠場者が出た中で行われている。
ミランの台所事情は苦しかった。左サイドハーフにはイェンス・ペッター・ハウゲがリーグ戦で初めて先発起用され、本職が右サイドバックのダビデ・カラブリアはフランク・ケシエとともに中盤の底でプレーした。
カラブリアにとっては自身の可能性を広げた試合となった。味方のタックルでボールを拾ったカラブリアは左に展開してゴール前に走りこむ。ラファエウ・レオンからのパスをペナルティーアーク付近で受けると、コントロールショットはゴール右上の隅を捉えた。
ユベントスとミランの差
前半のユベントスはビルドアップに苦しみ、自陣でボールロストを連発してしまった。ボールを持つことはできても、そこから幾度となくカウンターを受けて攻撃に水を差してしまった。
しかし、ハーフタイムを境にビルドアップの問題は解消。不用意なボールロストは減り、敵陣に攻め込むストレスは格段に減った。フィオレンティーナ戦に大敗して2020年を終えたユベントスは、2試合連続の大量得点で新年を連勝でスタートさせている。
ユベントスは2得点のフェデリコ・キエーザと2アシストのパウロ・ディバラを63分に下げる積極采配を見せる。すると、両者に代わって投入されたデヤン・クルゼフスキ、ウェストン・マッケニーのコンビから3点目が生まれた。
ビハインドを負ったミランはロレンツォ・コロンボ、ブラヒム・ディアス、ダニエル・マルディーニら若いアタッカーをピッチに立たせたが、反撃は叶わず。フレッシュな選手を投入してインテンシティを保つユベントスとは対照的に、後半はカウンターからのチャンスも少なかった。ミランとユベントスは層の厚さが違った。
ミランが見せた守備の限界
ミランは好調で勢いのあるチームだが、この試合ではユベントスが一枚上手だった。
ミランの左サイドバック、テオ・エルナンデスは攻撃的な攻め上がりが特徴だが、マッチアップしたキエーザに2得点を許した。1点目はディバラとのコンビネーション、2点目は鋭いシュートモーションを称えるべきだが、エルナンデスの寄せが甘かったことは否めない。
ミランの守備は両ボランチ、特にケシエの広いカバーエリアによって支えられているが、ユベントスは幅を広く使ってブロックを動かし続けた。ボールサイドでミランのサイドバックを引き付け、ボランチがハーフスペースをカバーしたことで生まれた新たなスペースを突く。生命線が寸断されれば、致命傷になるのは必然だった。
1点目は右サイドで3対3の数的同数となっており、ディバラとキエーザのコンビネーションが勝った。2点目は左サイドに流れたロナウドを2人で対応したところ、中央でディバラをフリーにさせてしまい、最終的には右サイドのキエーザが1対1の勝負を仕掛けることができた。ケシエがカバーできる範囲にも限界はある。
前線からの連動したディフェンスは高いレベルにあるが、ミランは押し込まれた状態から失点を重ねた。この試合ではカラブリアが慣れないポジションでプレーしたので仕方ない部分もあるが、それをユベントスに狙われていたのも事実。DFラインの前のスペースをディバラやロナウドに使われ、2列目からの飛び出しについていけないシーンが多かった。
ミランの総年俸はユベントスの40%以下
ミランは16試合目にして初黒星を喫した。ローマやユベントスもじわじわと差を詰めているが、2位のインテルがサンプドリアに敗れたため、ミランは首位をキープしている。
「このチームの強さは、選手たちが練習中から見せているインテンシティの高さに秘密がある。このチームが勝てる要因はクオリティの高さだけではない。選手全員が全力を尽くし、少しでも多く走ろうとする姿勢があるからだ。テクニックに優れた選手も、走らなければならないことを理解している」
退場者を出しながら勝利を収めたベネヴェント戦の試合後、ピオーリ監督は好調を維持する要因を振り返った。指揮官の言葉通り、チーム全体の走力が躍進を支えていることは間違いない。
7人の欠場者を抱えながら、9連覇中のユベントスと対等に渡り歩いたことはポジティブに捉えるべきだ。指揮官は「我々は強く、優れた資質を持っていることを示した。そしてそれを証明し続けなければいけない」と試合を振り返っている。
イタリア紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』によると、ミランの選手の総年俸は9000万ユーロ(約108億円)と推定されている。セリエAでは上からユベントスが2億3600万ユーロ(約283億円)でトップ。インテル、ローマ、ナポリと続き、5位のミランはユベントスの40%にも満たない。
イブラヒモビッチやジャンルイジ・ドンナルンマといったスターはいるが、将来性のある若い選手も多い。一部のベテランとハングリー精神にあふれる若手選手によって構成されるチームは、ブンデスリーガで連覇を果たしたユルゲン・クロップ率いるドルトムントに通じるものがある。勢いそのままにタイトルを獲得することも十分ありえるのではないだろうか。
1試合消化の少ないユベントスが地力を示し、ミランとの勝ち点差を7ポイントに縮めた。第35節に行われるリターンマッチは、どちらかが優勝を決定づける大一番になる可能性もあるだろう。
(文:加藤健一)
【了】