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Jリーグ 4年前

特に湘南ベルマーレとジュビロ磐田はその傾向が強かった。対策を打たれたとき、監督はどう考えるのか?【知将の駆け引き術・後編】

ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、来季からレノファ山口の指揮官として現場に帰ってくる「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開した渡邉晋氏初の著書『ポジショナルフットボール実践論』から、対策を取ってきた相手との駆け引きを振り返った「ポジショナルプレー交戦~対戦の駆け引き~」を一部抜粋して前後編で公開。今回は後編。(文:渡邉晋)

text by 渡邉晋 photo by Getty Images

マンツーマンで付かれたら…

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【写真:Getty Images】

 そうした相手に対して我々が少し困ったところはあります。それまではポジショナルな部分、《レーン》や《立ち位置》に重きを置いてきたので、ミラーゲームでマッチアップされ、マンツーマン気味に嚙み合わされてしまうと、それまで練習してきたことが通じなくなります。

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 しかし、相手がマンツーマンなら、《立ち位置》で優位を作らなくても、人に食いつく習性を利用して、局面の同数をひっくり返せばいい。そうアプローチしてきましたが、選手の感覚的な部分にはマッチしなかったように思います。

 それまで散々、「立ち位置! 立ち位置!」と言ってきただけに「マンツーマンで付かれてるんだけど、どうしよう?」と選手に戸惑いが生まれたのは当然かもしれません。ただ、相手は下がらざるを得ずに5バックになっているわけなので、「その時点ですでに我々が優位に立っている、慌てることはない」と私自身、安心していた部分があったのも事実です。

 明らかに対策される試合と、そうでない試合のギャップ。その中で、我々がやれないことと、やれることのギャップ。《立ち位置》の優位で戦うことに手応えを感じながらプレーしていた選手が少なくなかっただけに、その成功体験に引っ張られて、マンツーマン気味の相手に戸惑ったところはチーム全体にあったかもしれません。

一番顕著だったのはFC東京

 また、ミラーゲームで問題になったのは、我々に嚙み合わせて下がるチームよりも、嚙み合わせて前からプレッシャーをかけてくるチームのほうでした。4人の中盤のSHを上げ、2トップと合わせて3枚で、我々の3バックに同数で当ててくるのです。

 そのときは相手の3枚の両側が、外を消して、今のリバプールの両ウイングのように、我々の左右CBに外から寄せてきます。2018年で言えば、平岡康裕と板倉滉のところにガンッと寄せ、要はWBにボールを出させないようにするのです。そうやって外へのルートを消されると、シャドーには刺せるのですが、その刺したところには相手のボランチやCBが思い切り奪いに来る。

 そういう守備のオーガナイズをしてきたチームとして、一番顕著だったのはFC東京です。SHの選手が猛然とプッシュアップしてきます。「そこまで出てくるか」という印象でした。

 もともと3バックでミラーゲームになる相手でも、前からプレッシャーに来る相手が増えてきました。特に湘南ベルマーレとジュビロ磐田は、その傾向が強かったと思います。2018年になる頃には、我々に対して『4-4』のブロックを組んでノーマルに来るチームは非常に少なくなっていました。

 このような、前から嚙み合わせてプレッシャーに来るチームに対し、我々がビルドアップできなければ、自陣に押し込められた状態になってしまいます。いかに前進するか、勇気を持って前進できるか。これは大きなポイントでした。

(文:渡邉晋)

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『ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』


定価:本体1700円+税

≪書籍概要≫
渡邉晋は《切る》《留める》《解放》など独自の言語を用い、ベガルタ仙台に「クレバーフットボール」を落とし込んだ。実は選手を指導する際、いわゆる『ポジショナルプレー』というカタカナ言葉は一切使っていない。
にもかかわらず、結果的にあのペップ・グアルディオラの志向と同じような「スペースの支配」という攻撃的なマインドを杜の都に浸透させた。フットボールのすべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる――。
ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、いまだ仙台サポーターから絶大な支持を得る「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開する。

詳細はこちらから

【了】

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