フットボールチャンネル

Jリーグ 4年前

「仙台うまいな。ボール取れねぇ」。ガンバ大阪に与えたインパクト。ベガルタ仙台での駆け引き術【知将の駆け引き術・前編】

ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、来季からレノファ山口の指揮官として現場に帰ってくる「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開した渡邉晋氏初の著書『ポジショナルフットボール実践論』から、対策を取ってきた相手との駆け引きを振り返った「ポジショナルプレー交戦~対戦の駆け引き~」を一部抜粋して前後編で公開。今回は前編。(文:渡邉晋)

text by 渡邉晋 photo by Getty Images

分析・対策するチームとの駆け引き

1024Watanabe_getty2
【写真:Getty Images】

 2017年はシーズン半ばあたりから、ボールを動かすことが安定し、どんな相手に対しても攻撃で上回るものを出せるようになりました。特にガンバ大阪とホームで戦った第17節は印象的で、結果的には2-3で敗れはしたのですが、内容はガンバを相手に我々が完璧に主導権を握りました。試合が終わった後、人づてに聞いたのですが、ガンバのある選手が「仙台うまいな。ボール取れねぇ」と言っていたとか……。真偽のほどはわかりませんが、当時の我々のインパクトは強かったようです。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 それはもちろん、我々が攻撃に特化してトレーニングを続け、上達したこともありますが、もう一つは対戦相手がそこまで対策を打ってこなかったこともあります。2017年は仙台に対して特に大きな対策を練らず、割と無防備に来てくれる相手が多かったので、そういう試合では主導権を握り、ゴールを奪うことができました。

 ところが、その後、時間が経つにつれて、明らかな対策をする相手が出てきます。我々は攻撃時に[3-4-3]、あるいは相手が1トップなら[4-1-5]に変形しながら、「俺たちはこういう立ち位置を取る」と決めてスタートするのですが、それを分析されると、手詰まりな状態になってきたのです。

 特に大きな問題となったのが、一度押し込まれるとなかなか前に出て行けなくなる、という現象でした。守備のときに[3-4-3]の両WBが下がり、5バック化した状態で、[5-4-1]の時間が長くなってしまうのです。そこからボールを奪って前に出る局面において、もちろん技術的なミスもありますが、システムの構造上、パワーを持って前へ出て行く箇所を作りづらい、という難点はありました。

 相手の幅を取った攻撃に対応すれば、どうしても両WBが下がってしまい、また、相手DFが攻撃参加すれば、シャドーが守備に引きずられ、高い位置を取れなくなります。そうすると、ボールを奪った後に逆サイドへ《解放》するのも難しくなり、かといって全体が押し上げる時間を1トップで作れるかと言えば、孤立した状況では困難です。

ミラーゲームで嚙み合う試合の駆け引きは…

 ゲームの主導権を握り、プレー時間を攻撃のほうに逆転させるために、[3-4-3]を導入したわけですが、一方で押し込まれてしまうと、ひっくり返すことができない。これは大きな問題でした。特に難しかったのが、浦和レッズ戦です。当時の彼らは相手を押し込み、失ったボールを奪い返す作業がものすごく早く、またそれが鋭い時期だったので、我々はなかなか自陣から出て行けませんでした。

 敵陣で90分間プレーすることを目指して攻撃のトレーニングをしてきたチームがそのようになってしまうのは非常に好ましくない状況です。なぜなら、自分たちが練習していない状況を、試合で長くプレーすることになるからです。

 では、どうすれば、[5-4-1]から脱することができるのか。まずはそもそも、そういう状態にならないように、マイボールのときに自分たちがしっかり前進することを考えなければいけません。ビルドアップで敵陣に押し込むことができれば、ボールを奪われても高い位置で奪い返すことができ、簡単には自陣に押し込まれずに済みます。

 ただし、そのビルドアップについて、相手に特に大きな対策を打たれていなくても、システムがミラーゲームで嚙み合う試合のときは、うまくいかないと感じることがありました。あるいは4バックの相手でも、どちらかのSHが明らかにWBに付いて下がり、5バック化して[5-3-2]のような形で守るチームも増えていきました。

(文:渡邉晋)

20201015_kanzen_kanzen

『ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』


定価:本体1700円+税

≪書籍概要≫
渡邉晋は《切る》《留める》《解放》など独自の言語を用い、ベガルタ仙台に「クレバーフットボール」を落とし込んだ。実は選手を指導する際、いわゆる『ポジショナルプレー』というカタカナ言葉は一切使っていない。
にもかかわらず、結果的にあのペップ・グアルディオラの志向と同じような「スペースの支配」という攻撃的なマインドを杜の都に浸透させた。フットボールのすべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる――。
ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、いまだ仙台サポーターから絶大な支持を得る「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開する。

詳細はこちらから

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!