リバプールは前節から3人を変更
過酷な戦場を歩む王者をラクにしたのは、日本人FWの「フレッシュな足」だった。12月19日に行われたプレミアリーグ第14節で、クリスタル・パレスに大勝したリバプール。終わってみれば7-0という大差での勝利だったが、過密日程を戦っている最中のレッズにとっては、決して試合の入り方は簡単ではなかったはずだ。
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試合後にユルゲン・クロップ監督は、次のようなコメントを残している。
「今日、クリスタル・パレスは水曜日にプレーして、すぐに土曜日の12時30分にプレーするのがどれぐらい難しいか、少し感じたと思う。それはタフだし、我々にとってもタフだった」
リバプールは3日前の水曜日の21時キックオフの試合で、かつ1枚もカードを切らずにトッテナムとの首位攻防戦を制したばかり。個々のコンディションを考えればローテーションは必然で、このアウェイゲームに臨むにあたり、クロップ監督は「我々は日曜日(13日のフルアム戦)、水曜日と試合をしたので、今日はフレッシュな足が必要だった」と考えていたという。
そこでスパーズ戦からDF、MF、FWの各ポジションで1人ずつ入れ替えた。モハメド・サラーは疲労を考慮されてお休み。先発に入ったのはジョエル・マティプ、ナビ・ケイタ、そして南野拓実だ。クロップ監督によれば、特にトレーニングでパフォーマンスが良かったため、南野を起用したという。
指揮官も讃えた南野拓実の初ゴール
そして日本代表FWは、指揮官の期待に応えた。試合が始まってすぐの3分、南野はペナルティエリア内の中央にポジションを取った。右のマネからの柔らかいパスを、フェイントを入れてナサニエル・クラインを外し、ゴールの左に突き刺した。
クロップ監督も「素晴らしいフィニッシュ」と讃えたゴールは、南野にとって記念すべきプレミア初得点となったが、何より開始早々のこの1点のおかげで、同じピッチに立った他のリバプールの選手たちはメンタル的に大分ラクになったのではないか。くどいようだが、何せマティプ、ケイタ、南野以外の8人は、“3日前の水曜日の21時キックオフの試合で”、ジョゼ・モウリーニョのスパーズと90分をフルで戦ったばかりなのだ。
前半のリバプールは、チーム全体としては決して動きは良くなかった。カウンターをフィニッシュまで持っていくことができず、味方同士でパスが繋がらないところもあった。23分にはファビーニョがジョルダン・アイエウに簡単に競り負けて、決定機を作られてしまう。クリスタル・パレスに少なからずチャンスを作られた。
もちろんスパーズ戦のようなインテンシティを、シーズンを通して全ての試合で維持するのは難しいだろう。コンディション面を考慮して選手をやりくりしつつ、最低限のチームのクオリティは維持する。悪いときは悪いときなりに勝っていかなければならないし、勝っていくことができるのが強いチームだ。
初ゴールが持つ価値
そういった意味でクリスタル・パレスに大勝したリバプールは、やはり強い“チーム”と言える。そして、その口火を切った南野のゴールは、残りの87分の進め方を大分ラクにしたという意味で、価値のある先制弾だったと言えるのではないか。
日本人FWの早過ぎる先制点で、引き気味の相手に対して無理に攻める必要はなくなり、少しゆったりとしたボールポゼッションで時間を進めることもできた。この得点によって、クリスタル・パレス戦で90分間プレーした南野が、リバプールが過密日程を乗り切る上で貴重な戦力であることを、クロップ監督に改めて印象付けたようだ。
欲を言えば、59分の決定機は決めておきたかったところか。ナビ・ケイタからのパスを右のアウトで大きめにトラップし、ガリー・ケーヒルをかわした南野が放ったシュートは、ゴールの右に外してしまう。言わば“レッドブル・ホットライン”が成立かと思われたシーンだが、こういった場面でロベルト・フィルミーノのようにリラックスして決め切ることができれば、レギュラーの座に一歩近づくのではないか。
もちろん現在のリバプールで生存競争の真っただ中にある南野と、実績のあるフィルミーノとでは、メンタルの在り方が大分違うだろうし、そもそも日本人とブラジル人とでは、ゴールに対する責任の捉え方そのものが違うのかもしれない。
しかしクロップ監督は、試合後のロッカールームで「笑顔」を振りまいたという南野の様子を喜んでもいる。おそらく情に厚い指揮官も、日頃のトレーニングの様子を見ていただけに、ようやく初ゴールを決めた日本人FWに少なからず安堵したのだろう。
クリスタル・パレス戦の早過ぎる先制弾によって、南野が何らかの呪縛から解き放たれたのなら、そのフィニッシュの精度が上がっていく可能性はある。
(文:本田千尋)
【了】