公式戦無敗記録は「14」でストップ
開幕4連勝とこれ以上ないスタートを切りながらも、ここ最近はリーグ戦6試合でわずか1勝と失速していたエバートン。一方で新戦力が徐々にフィットし、公式戦14試合無敗と絶好調を維持していたチェルシー。そんなまったく異なる状況にある両者が、観客の戻ってきたグディンソン・パークで激突した。
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エバートンはこの試合で4-3-3システムを採用。攻撃の核であるハメス・ロドリゲスは怪我で不在であり、中盤にはギルフィ・シグルドソンが入った。対するチェルシーのシステムも4-3-3。ハキム・ツィエク、クリスティアン・プリシッチ不在の中でティモ・ヴェルナー、オリビエ・ジルー、カイ・ハフェルツの3人が前線に並んでいる。
試合は立ち上がりからチェルシーがボールを握る展開となり、何度かエバートン陣内深い位置まで侵入していた。その中でセットプレーからチャンスを迎えるシーンも多く、このあたりにはチームとしての好調さがうかがえた。
しかし、先制したのはエバートンだ。21分、GKジョーダン・ピックフォードの蹴ったボールに反応したドミニク・キャルバート=ルーウィンが頭で触ると、そのままボックス内に侵入。すると飛び出したGKエドゥアール・メンディがこれをファウルで阻止。PKとなり、最後はシグルドソンが冷静に流し込んだ。
まさにエバートンはワンチャンスをモノにする格好となった。だが、流れは引き続きチェルシーにある。ボールを支配され、ほぼ自陣内でのプレーを余儀なくされていたのだ。
それでも、守備陣が粘り強い対応を見せ、失点は許さない。貴重な1点リードを全力で守り切る姿勢がよく表れていた。
後半に入っても、支配するチェルシー、守るエバートンという構図に大きな変化はなかった。しかし、エバートン側の“慣れ”や疲労の影響もあったのか、チェルシーの攻めは前半よりも迫力が増すどころか静かになってしまった。同点の可能性を、あまり感じさせていなかったのである。
そのまま時間はズルズルと過ぎ、気が付けば後半アディショナルタイムに。チェルシーは最後の最後までパワープレーでゴールをこじ開けようとしたが、堅く閉ざされた扉が開くことはなかった。試合はそのまま1-0で終了している。
リシャルリソンを封じた若きDF
チェルシーはこれで、グディンソン・パークでのエバートン戦3連敗。またも鬼門を攻略することは叶わなかった。恩師カルロ・アンチェロッティ監督との指揮官対決に敗れたフランク・ランパード監督は「彼ら(エバートン)は本当によくやった」と試合後に話している。
しかし、黒星を喫したとはいえ、チェルシーがそこまで悪かったわけではない。とくに、今季改善されつつある守備面においてはそれなりの安定感を誇っていた。カウンターからゴールを脅かされるシーンは何度かあったが、結果的に失ったのはPKによる1点のみである。
なかでも目を見張る活躍ぶりだったのが、右サイドバックのリース・ジェームズだ。20歳の若きイングランド代表戦士は、最後の最後までよく働いていた。
ハメス・ロドリゲス不在の中、エバートンの崩しのキーマンは左サイドのリシャルリソンだった。非凡なスピードとパワーを兼備するブラジル代表FWは、強引な形でも個で打開できる力を持つ。チェルシーとしては何がなんでも封じるべき存在だった。
そのリシャルリソンとのマッチアップを任されたのが、他ならぬR・ジェームズだ。守備時にはほぼリシャルリソンのみをマークしており、彼にボールが入れば恐れることなく前に出て潰しに行く。これを徹底していた。
リシャルリソンもかなり激しく当たりにきたが、R・ジェームズもパワーでは負けていない。無力化されることなく対等に、いや、相手を上回る強度を保ちながらプレーを続けている。1対1ではほぼ大きな仕事を与えていなかった。
ボールを奪いポジティブトランジションが働けば、休むことなく前へ出ていく。そして高質なクロスでゴールへの可能性を引き出す。ハフェルツがやや存在感を失っていた中、R・ジェームズが右サイドを活性化させていたのだ。
疲れの溜まる後半でも、背番号24は元気いっぱい。76分にはエバートンのカウンターが発動し、右サイドから左サイドのリシャルリソンへ大きく展開されディフェンシブサードに侵入されたが、R・ジェームズがスプリントして戻り、ボールをカット。決定機を阻止する、見事な対応だった。
フル出場を果たしたR・ジェームズの『Who Scored』によるレーティングは「7.0」でチーム2番目タイ。タックル成功数4回はチームトップで、ドリブル成功数1回、パス65本で成功率92%、被ドリブル数0回と攻守両面で申し分ない数字が出ている。チームとしては残念ながら負けてしまったが、そのパフォーマンスは間違いなく賞賛されるに値するものだった。
本職CB4枚の壁に苦戦
一方で、チェルシーの問題は攻撃陣にあった。0-1というスコアが出ているので改めて言うまでもないが、ここがエバートン戦敗北の原因となっている。
エバートンの守備は非常に徹底していた。まず、チェルシーの両センターバックに対してはキャルバート=ルーウィンが見る形だったのだが、そこまで強くはいかない。ある程度ボールを持つ時間を許した。
シグルドソンは基本的に中盤底エンゴロ・カンテをマークする。こうしてクルト・ズマ、チアゴ・シウバの両CBによるパスコースを限定した。ただ、シグルドソンはカンテにボールが入っても、ズバズバとそれを奪ったわけではない。フランス人MFの動きについていくだけで、守備の「強度」は決して高くなかった。
しかし、これで良かったのだ。シグルドソンはカンテからボールを奪えずとも、相手のビルドアップを“遅らせる”だけで十分な役割を果たしていたのである。
シグルドソンが相手のビルドアップに時間をかけさせたことで、その後ろのアランとアブドゥライ・ドゥクレの両者が準備万全の状態でチェルシー攻撃陣を迎えることができた。今夏加入した二人は、ご存じの通り対人守備には定評がある。チェルシー側が真っ向からぶつかっても、中央エリアを突破できる確率はそう高くはなかった。
するとチェルシーの攻めは必然的にサイドへ流れる。R・ジェームズ、ベン・チルウェルの両サイドバックも高い位置を取った。しかし、そこにリシャルリソンとアレックス・イウォビがそれぞれしっかりと帰陣する(リシャルリソンは怪しい場面もあったが…)ことで数的優位を作らせない。このあたりの徹底は、さすがアンチェロッティ監督といったところだろうか。
そしてチェルシーにとって最も厄介だったのは、この日のエバートンの最終ラインが本職CB4枚で形成されていたこと。上記した通りサイド攻撃が中心となるのでその分クロスの数も増えるが、身長190cm超えのマイケル・キーンとジェリー・ミナ、身長183cmのベン・ゴッドフリー、身長184cmのメイソン・ホルゲイトの揃うエバートン守備陣にことごとくはじき返された。
プリシッチやツィエクといった本職ウイングが不在だった影響も大きい。ハフェルツ、ヴェルナーはサイドでそれぞれ持ち味を発揮できず、崩しのアイデアを提供できずにいた。それを見たランパード監督は後半途中にハフェルツを下げタミー・エイブラハムを投入したが、前線に高さを加えただけで攻撃の形は変わらない。同じことを繰り返し、時間を消費するだけだった。
アンチェロッティ監督が最初の交代カードを切ったのは83分のことだった。そのことからも、チームとしていかに充実していたかがうかがえる。まさにプラン通りだったのだろう。
チャンスのほとんどがセットプレーで、流れの中では形を作らせてもらえなかったチェルシー。今季プレミアリーグではリバプール戦、マンチェスター・ユナイテッド戦、トッテナム戦、そしてこのエバートン戦で無得点に終わっているが、こうした実力で並ぶ、あるいは上回る相手に点を取って勝っていくことが、今後の課題と言えるのかもしれない。
(文:小澤祐作)
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【了】