Caoimhin Kelleherってどう読む?
日本にも難しい読み方の名前はたくさんあるが、漢字ではなくアルファベットを使う欧州にも時々トリッキーな読みの名前を持つ者がいる。
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そのサッカー選手のファーストネームは「Caoimhin」と書くが、日本語表記ではアルファベットをそのまま読んだ「カオイムヒン」をはじめ複数のパターンがある。
ところが調べてみると、原語であるアイルランド語での正しい読みは「クィービーン」や「キービーン」に近いらしい。英語では「ケビン」にあたる名前だそうだ。ややこしや。
なので、本稿ではリバプールに所属するアイルランド代表の若手GKを「クィービーン・ケレハー」と表記することにする。
あまり聞き覚えのない選手かもしれないが、無理もない。リバプールの下部組織出身だが、トップチームでの出場経験は昨季中盤の国内カップ戦で記録した4試合のみ。これまでずっとアリソンやアドリアン、シモン・ミニョレらの陰に隠れていた若手選手だ。
ところが、ここにきて評価が急上昇している。
現地1日に行われたアヤックス戦でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)デビューを飾ると、ピンチの場面でファインセーブを連発して1-0の完封勝利に貢献。さらに現地6日のウォルバーハンプトン戦でプレミアリーグデビューも果たし、チームは4-0の大勝。公式戦2試合連続でのクリーンシートを達成した。
22歳13日でリーグ戦をクリーンシートで終えたGKとしてはリバプール史上3番目の若さ。さらにリーグデビュー戦での無失点はクラブ史上最年少だという。他の下部組織出身選手とは違い、一度もレンタルに出されることなく大切に育てられてきたGKが最高の形でベールを脱いだ。
CLデビューとなったアヤックス戦を終えた後のケレハーは「携帯電話が鳴り止まないんだ! 受け取った全てのメッセージとサポートに心から感謝したい」と喜びを語った。
クロップ監督が抜てきした理由
正GKのアリソンがハムストリングを痛めたことによってチャンスが回ってきた形だが、リバプールには昨年のUEFAスーパーカップで戴冠の立役者となったアドリアンというベテランもいる。なぜ今、ケレハーに出番が与えられたのだろうか。
答えはシンプルだ。ケレハーの方がチームの戦い方に合致したプレースタイルだから。これに尽きる。
昨季、第2GKとしてアリソン離脱時にその穴を埋めていたアドリアンだが、ミスも多かった。例えばCLラウンド16の2ndレグでリバプールは、延長前半にマルコス・ジョレンテにゴールを許し、アトレティコ・マドリードに屈した。この失点のきっかけとなったパスミスを犯したのはアドリアンだった。
特にユルゲン・クロップ監督が重視しているのは、ビルドアップにおける貢献度だろう。スタッツを見ても、アドリアンが今季出場したリーグ戦2試合とCLの1試合で記録したパス成功率は65%なのに対し、ケレハーはCLデビューのアヤックス戦でパス成功率71%だった。
アドリアンの数字は昨季に比べて大きく下落していて、それとともにチーム内での信頼も失いつつある。一方で伸び盛りのケレハーは、高い足もとの技術のみならず、セービング能力も必要な水準に達しているとの評価を固めつつある。
クロップ監督はアヤックス戦後にケレハー起用の理由を次のように説明している。
「アドリアンは我々のために素晴らしい仕事をしてきてくれたと、心底そう思っている。クリーンシートも多く、どんな時でもしっかりプレーしていた。だが、今の我々はクィービーン・ケレハーのナチュラルなサッカー選手としての能力を必要としている。アヤックスのプレッシングに対し、こちらはハーフスペースに(GKから)浮き球のパスを入れるといったようなことが必要だった」
サッカーはピッチ上の22人のうち20人は足でしかボールに触れない。指揮官はいかに足でボールを繊細に扱えるか、という点をアヤックス戦で起用するGKに求めたということだ。狙ったところに長短のパスをピタリと落とせるスキルは、現代のGKに必要不可欠なものとなりつつある。
ケレハーがGKながら足もとの技術に優れるのは、元FWとしての名残も大きい。アイルランドの生まれ故郷コークに本拠を置くラウマホン・レンジャーズでプレーしていた頃、15歳までストライカーとしてプレーしていた。するとU-15チームでGKが足りなくなった際に代役を務めたのをきっかけに、本格的にGKへ転向。そして3年足らずでリバプールに引き抜かれることになった。まさに天性の才能の持ち主だったのである。
元FWの経験が生きたプレースタイル
クロップ監督はビルドアップ能力の高さだけでなく、「彼は優れたショットストッパーである」とGKとしての本来の仕事であるシュートを止める能力も認めている。
実際、アヤックス戦ではCLの舞台にふさわしいパフォーマンスを見せていた。前半はダフィ・クラーセンの至近距離からのヘディングシュートや、エドソン・アルバレスの強烈なミドルシュートをしっかり弾き出した。リバプールの1点リードで迎えた後半の終盤には、クラース=ヤン・フンテラールが放った渾身のヘディングシュートにも見事に反応してチームを救った。
ウォルバーハンプトン戦でもダニエル・ポデンセのループシュートにはじまり、相手の枠内シュート3本全てを防ぎきった。足でボールを扱っている時にプレッシャーを受けても慌てず、正確なパスをつなげることもCLとプレミアリーグでしっかり示している。
クロップ監督も「彼は非常にいい試合をしたね。GKが全部セーブしてくれて、本当に素晴らしかった。他のところでも彼がもたらしてくれた貢献は大きい。本当にスペシャルなタレントの持ち主だ」とケレハーのパフォーマンスに賛辞を惜しまない。
「彼はボールを持っていても非常に落ち着いていて、的確な選択をする。足もとの技術的にも傑出したものを持っていると思う。ユース年代は主にフィールドプレーヤーをやっていたことが助けになっているのではないだろうか。彼がいてくれるのは大きいよ」
現役世界最高峰の能力を誇るアリソンを追い抜き、すぐリバプールの正守護神の座に収まることはないだろう。だが、継続してベンチ入りし、ちょうど今のようにブラジル代表GKが負傷などで離脱する際には代役を任されることになるはず。ケレハーはチャンスを得るのにふさわしい活躍を披露した。
「KELLHER」になっていたけれど…
ウォルバーハンプトン戦後、リバプール公式のインタビューでケレハーは「僕はチームを助けるためにここにいる。ありがたいことに再びクリーンシートで試合を終えることができた。僕とディフェンスの選手たちにとって無失点は最も重要なこと。しっかり仕事ができたと思う」と語った。経験を積むことで徐々に自信も深まっていることだろう。
今季はフィルジル・ファン・ダイクやジョー・ゴメス、アレックス・オックスレイド=チェンバレンなどが長期離脱。トレント・アレクサンダー=アーノルドやチアゴ・アルカンタラ、ジェームズ・ミルナー、アリソンといった短期の離脱者も多い。リバプールはとにかく負傷者続出に苦しめられている。
その過程でセンターバックにはリース・ウィリアムズ、右サイドバックのネコ・ウィリアムズ、セントラルMFのカーティス・ジョーンズなど、将来が楽しみな若手選手が台頭してきた。ケレハーもその1人で、勝ち続けながら次の世代にバトンを繋いでいくための基盤ができつつある。
ウォルバーハンプトン戦の前半はユニフォームの背ネームのつづりが「KELLEHER」ではなく、「L」と「H」の間の「E」が抜けて「KELLHER」になっていたのもご愛嬌。リバプールの優秀な用具担当もたまにはミスをする。
後半からは正しいつづりになったユニフォームに着替えて、会心の勝利に貢献した。「クィービーン・ケレハー」という名前の読み方やつづりを間違えられることはあっても、ピッチ上でのプレー選択や選手として歩む道を間違えることなく、順調に成長していってほしいものだ。
競争相手であり仲間でもあるGKチームのメンバーにも恵まれている。「毎日頑張って、できるだけたくさんの試合に出たい」と意欲に溢れる若者にとって、リバプールは成長のきっかけがそこらじゅうに転がった最高の環境に違いない。
(文:舩木渉)
【了】