フットボールチャンネル

セリエA 4年前

冨安健洋は薙ぎ倒されてしまった。怪物FWルカクの脅威。「サッカーで止めるのは無理」と闘将もお手上げ【分析コラム】

セリエA第10節、インテル対ボローニャが現地時間5日に行われ、3-1でホームチームが勝利している。日本代表DFの冨安健洋はこの日もフル出場。しかし、2失点に絡むなど、内容は良くなかった。とくに、怪物FWロメル・ルカクには大苦戦を強いられてしまった。(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

ミハイロビッチ監督激怒。その理由は?

20201206_tomiyasu_getty
【写真:Getty Images】

「新しいシステム? ああ、練習で試したよ。でもそれは、どっかのバカ野郎が記者に情報を漏らしてんだか発見するためだ。オレは調べてる。見つけたら壁に打ち付けてやる。練習は我われだけでやっていたというのに、翌日の新聞には情報が漏れているんだ。誰かが話してんだよ。見つけたらタダじゃ済まさん! 今回ばかりは頭にきてる」。

【今シーズンの冨安健洋はDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 4日、インテル戦の前日記者会見で、ボローニャのシニシャ・ミハイロビッチ監督が激昂した(かなりスラング混じりで翻訳には意訳を混ぜている)。地元紙の報道で4-2-3-1から3-4-1-2へシステムを変更し「インテル対策のため、3バックで戦う彼らとシステムを合わせ鏡にする」という報道が出されていたからだ。

 運用上、攻撃時には3バックへと変更する可変型とはいえ、基本システムを4バックに一貫して戦ってきた彼らが戦術を変えるというのは一大事である。冒頭の発言の通り指揮官はそれをブラフだと強調したが、試合当日のスタメンは見事に3バックになっていた。

 これまでウイングをやらせていたムサ・バロウを2トップの一角にし、両翼のウイングバックにはロレンツォ・デ・シルベストリとアーロン・ヒッキーを起用。そして冨安健洋は、三枚のセンターバックの左として配置された。

 ただ、これが大変なこととなった。マッチアップすることになったのはロメル・ルカク。アントニオ・コンテ監督の薫陶を受けてますます成長中で、どんなDFにとっても抑えるのが難しい存在となっているベルギー代表FWに、冨安は苦しめられることとなった。

怪物ルカクに苦戦

 ボローニャの3バックは前述の通り左に冨安、中央にはダニーロ、右にはガリー・メデル。彼らはインテルの2トップに対し、以下のような対応を取った。技術と機動力の高いアレクシス・サンチェスには、メデルが高い位置から捕まえに行く。一方DFラインの中で一番身長のあるルカクのことは、主に冨安が見ることになった。

 しかし、これが大変だった。大きな体格ながらトップスピードも加速力も高く、しかもマーカーが体を寄せても体軸が全くブレないばかりか、チャージの圧力を吸収しそのままマーカーを押し込んでいってしまう。現役時代は国際的なCBとして鳴らしたミハイロビッチ監督ですら「格闘技なら反則技でも使うがサッカーで止めるのは無理」とも言っていた相手に、冨安はパワー負けしてしまった。

 それが16分、チームの1失点目だった。インテルの左WBペリシッチが左サイドを破ったことに合わせ、ゴール前に走り込んでくる。ここに冨安は体を入れ、前に出てクロスに合わせるコースを消そうとした。ところが互いに腕を絡め、体をぶつけあっているうちに倒されたのは冨安の方。ルカクは立っていた。

 それでも冨安がギリギリまで競り合っていたために、トラップそのものは乱れてシュートはミートしなかった。だがこの巨漢FWは、体のバランスを瞬時に整え直して左足を振った。その間、薙ぎ倒された冨安は動けず。その頭上を飛んだシュートは、ゴールへと突き刺さった。両者ともに腕を出し合ってもつれたと判断したためか、パオロ・バレーリ主審はファウルの笛を吹かずゴールを宣告。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)での修正も入らず、得点が認められてしまった。

 その後もルカクに対しては苦戦した。予測ベースのインターセプトには成功したが、ハイボールでの競り合いは大変。ヘディングを狙う相手に体を寄せに行っても、平然と流されてボールをキープされる。またルカクはダッシュも鋭く、後方でボールを繋いだりカバーリングに回ったりした際も、詰められてボールコントロールの余裕を与えてはもらえなかった。

 そんな冨安は、45分にも失点に絡んだ。味方がインテルMFマルセロ・ブロゾビッチへのマークをフリーにしてしまうと、その彼から前線に素晴らしいパスを出される。冨安はこれに反応しクリアを狙ったが、伸ばした足は空振り。その背後をアシュラフ・ハキミに走り込まれシュートを打たれた。裏を狙ったハキミをオフサイドポジションに残さなかったヒッキーの責任が大きいが、冨安がパスを遮断できなかったこともまた事実だった。

CBとしての評価を確立するためには…

 結局、前半の2失点がボローニャには重くのし掛かった。ミハイロビッチ監督は63分にシステムを4バックへと戻し、反撃を図る。その4分後に1点は返すものの、直後に左サイドをまたハキミに突破され、チームは3失点を許した。

 結果的には失敗に終わった3バックだが、ミハイロビッチ監督によれば守備を強化したいという理由で採用してものではなかったらしい。リッカルド・オルソリーニをはじめ、前線に故障者が多かった関係で4-2-3-1ができなかったための苦肉の策。「サイドをやらせているバロウを中央に絞らせて、楽にプレーさせたかった」と地元メディアに語っていた。

 だが、選手たちには違うメッセージの伝わり方をしてしまったようだ。「肝心なのはシステムではなく、どう戦うかという姿勢だ。DFを一枚増やしたために、選手の中には『今日は引き分けを狙う』と考えてしまった者が出たのかもしれない」と指揮官は反省点を語っていた。

 もっともこの日の冨安にとっては、チーム戦術の対応以上に対人のデュエルという点で反省が残ったゲームとなったのかもしれない。セリエAでCBとして戦いだしてからまだ月日の浅い22歳の選手がルカクに薙ぎ倒されるのは、そこまで不名誉なことではないだろう。だが、 FWがゴール前の一瞬に集中力の全てを使ってくるようなセリエAでは、CBがエリア内で屈強に立ちはだかることは条件の一つとなっている。冨安がCBとしても評価を確立するためには、この点での成長を見せることが必須となる。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!