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引き分けはベストな「結果」
引き分けは両チームにとってベストな結果だったかもしれない。
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現地1日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第5節で対戦したポルトとマンチェスター・シティは、スコアレスドローで勝ち点1ずつを積み上げ、揃って決勝トーナメント進出を確定させた。
ポルトは1ポイントでも獲得すればグループステージ突破が決まり、一方のシティは1ポイント以上で試合前の勝ち点差を維持すれば首位突破という状況だった。最終的に両チームの望みである決勝トーナメント行きが叶えられたスコアレスドローは、「勝てなかった」というネガティヴな感情を打ち消す価値のあるものだっただろう。
シティを率いるペップ・グアルディオラ監督は試合後、「残念ながら我々はゴールを奪えなかったが、ここには1位突破を決めるために来た。ハッピーだよ。私が思うに、ポルトも同じ気持ちなのではないだろうか」と語った。
試合内容に関しても「我々は信じられないほどいいプレーを見せたと思う。こちらが攻め、相手には1本のコーナーキックも与えていない。そして1本も枠内シュートを打たせていない」と満足している様子。スタッツを見るとコーナーキックはシティの11本に対し、ポルトは確かに0本。ポルトの枠内シュートは1本と記録されているが、シュート数は18対2とシティが大きく上回った。
「ベンフィカと並び、ポルトはポルトガル最高のクオリティやフィジカル、前線での素早さといった要素を備えている。そういう相手に対し、我々は非常にいいパフォーマンスを見せることができた」
ペップの振り返りは、いたってポジティブだった。
逆にポルトは「負けないこと」を徹底した戦い方で挑み、大きな成果を得た。今大会5試合で4度目のクリーンシートを達成し、ホームでは1点も奪われていない。セルジオ・コンセイソン監督は「ボールロスト時に素晴らしい反応を見せるシティに対し、望むような形で前進できなかったが、守備組織に関しては非常に良いパフォーマンスだった」とディフェンス陣の奮闘を称える。
「私は何年もここで仕事をしてきたが、これまでに言ってきたことが無駄ではなかったのだと思う。ラウンド16にはこれまでもチームとともに進んだことはあるが、決して黄金時代というわけではなかった。むしろ困難な時期だったと思う。創造的で賢くあり続け、ポルトというクラブの偉大な歴史を紡ぎ続けなければならない。そして、このような難しい時にCL決勝トーナメント進出を達成した選手たちを称えなければならない」
とにかくゴールを死守するポルト
コンセイソン監督がこれまで徹底してチームに植え付けてきた「規律」が、シティ相手に無失点という結果をもたらした。
リーグ戦やCLの他の試合では使っていない5バックを採用したポルトは、5-3-2の布陣でシティの攻撃を迎え撃った。相手との力関係に抗うことなく、リスペクトして受け止める。シティの選手たちが入り込むスペースを5人のDFで消し、中央を破ろうとする中盤の名手たちを3人のハードワーカーが常にけん制する戦い方だ。
スピードのある2トップを生かしたカウンターの破壊力に乏しかったのは置いておくとして、一糸乱れぬ守備ブロックの統率には目を見張るものがあった。もし“水漏れ”があれば、最後はGKアグスティン・マルチェシンが渾身のセーブで穴を塞いだ。
夏の移籍市場で主力選手の多くが退団した今のポルトは、加入してからの年数が浅い選手も多く、CLでの経験に乏しい。それが自分たちの力を過信しないことにつながり、シティ相手にも力量差を認めて組織守備を徹底するマインドを植え付けられたのだろう。
攻めあぐねるシティは結局ゴールを奪えなかった。22分にはロングカウンターからフェラン・トーレスがGKと1対1になるが、シュートはマルチェシンの壁を超えられず。37分にはコーナーキックの流れからラヒーム・スターリングが際どいミドルシュートを放つも、ゴールライン上でDFザイドゥ・サヌシにクリアされてしまった。
後半に入って58分にはロングパスに反応したスターリングが、ポルトのDFマラン・サールを背後から振り切ってGKと1対1になるも、再びマルチェシンにブロックされてしまう。69分にはコーナーキックの流れからシティが決定機を創出するも、マルチェシンがフェラン・トーレスの放った至近距離からのオーバーヘッドシュートを超反応で弾き出した。
80分のコーナーキックの場面でも、ポルトのアルゼンチン代表GKはルベン・ディアスの至近距離からのシュートを左手1本で止める。直後にガブリエウ・ジェズスがゴールネットを揺らしたものの、これはVAR(ビデオアシスタントレフェリー)にオフサイドが見破られてノーゴールとなった。クロスの出し手だったベルナルド・シウバがパスを受ける際、オフサイドラインより前に片足が残っていたという判定だった。
引き分けでも「収穫」は大勝利
イケル・カシージャスから背番号1を受け継いだポルトの守護神は、間違いなくマン・オブ・ザ・マッチに値する獅子奮迅のパフォーマンスだった。試合後にマルチェシンは「最も重要なのはチームのこと。全員がピッチ上では自分自身を押し殺してやり遂げた。これは非常に重要なことだ。シティのようなチームと対戦するのはすごく難しいけれど、僕たちはやり遂げたんだ」と無失点で終えたことへの手応えを口にした。
ペップ監督は表向きにポジティブな印象を語ったものの、内心は“塩漬け”にされて勝てなかったことを悔やんでいるに違いない。「彼の持っているようなチームと予算があって勝てなかったら、私だってそう思うだろう」とコンセイソン監督はニンマリだ。
冒頭でスコアレスドローは「両チームにとってベストな結果」と書いたが、それはあくまで「結果」だけに対してであって、「内容」と「収穫」は好対照なゲームだった。指揮官たちの言葉を鵜呑みにしてはならない。
シティはまたしても5バックの相手を崩しきれず、無得点に終わった。ペップ監督は「特にアウェイゲームは素晴らしかった」とグループステージを振り返るが、苦虫を噛み潰していることだろう。自慢の攻撃は不発で、悲願のタイトルはおろか、毎年のようにベスト8を超えられないのではという不安もよぎる。
逆にポルトは2大会ぶりとなったCLのグループステージで、5試合中4試合をクリーンシート、1節を残して決勝トーナメント進出という成果に大満足だろう。現実的にベスト8以上に勝ち進む力はないかもしれないが、グループステージを突破しただけでも収入面でとてつもなく大きなメリットを得られるからだ。
今大会ではグループステージ出場で各クラブに1500万ユーロ(約18億円)、グループステージ各節で勝利すると270万ユーロ(約3億2000万円)、引き分けで90万ユーロ(約1億1000万円)が支払われる。さらにラウンド16に進出したクラブには追加で950万ユーロ(約11億4000万円)が与えられるなど、勝ち進めば賞金だけでも莫大な利益を享受することができる。
例年のように入場料収入はないが、ポルトの場合は現時点で3勝1分1敗と決勝トーナメント進出が確定しているため、3350万ユーロ(約40億円)の収入が転がり込んでくる計算になる。グループステージ最終節のオリンピアコス戦に勝利すれば3620万ユーロ(約43億円)に増える。
シティにとっては端金かもしれないが、これだけの収益があれば、チームはさらなるパワーアップが可能になる。ホームだからといって大敗するリスクを背負ってむやみに攻めに出ずとも、あえて“塩漬け”を狙う真の意味はそこだ。勝利できる可能性が他の試合に比べて低くなるシティ戦は、引き分け狙いで確実に「突破」を決めるだけで良かった。
ポルトはクラブの将来を考えた上でベストなプランを採択し、狙い通りの結果を得た。引き分けでも手にした収穫は勝ったようなものだったのだ。
(文:舩木渉)
【了】