大黒柱イブラヒモビッチの不在
昨季のリーグ戦再開後から、ミランはセリエAでの無敗記録を20試合まで伸ばしている。今季も6勝2分という素晴らしい成績を残して首位に立っている。
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39歳となったズラタン・イブラヒモビッチの影響力は絶大で、その貢献はピッチ内外に現れている。リーグ戦再開後は16試合の出場で17得点を挙げ、若い選手が多いチームにファイティングスピリットを植え付けた。
しかし、そのイブラヒモビッチはピッチにいない。22日のナポリ戦で2得点を挙げてチームを勝利に導いたが、試合終盤に左足のハムストリングを負傷した。復帰までは2週間から3週間程度かかると見られており、UEFAヨーロッパリーグとリーグ戦を並行して戦っているミランはしばらくの間、絶対的エース抜きでの戦いを強いられることとなった。
ミランの本拠地サン・シーロで行われた第3節は0-3でリールが勝利している。リールも当時はリーグ・アンで無敗と好調で、堅守速攻でミランを攻め立てた。公式戦でのミランの敗北は実に8か月ぶりだった。
代表ウィークを挟んで行われたこのリターンマッチは、後半開始40秒でミランが先制する。リールのお株を奪うようなカウンターでアンテ・レビッチが抜け出す。並走していたサム・カスティジェホがパスを受けてゴールに流し込んだ。
しかし、リールも65分に同点に追いついた。前回対戦でハットトリックを達成したユスフ・ヤズジュを下げて間もなく、敵陣でのスローインからバンバがゴールネットを揺らした。リターンマッチはお互いに勝ち点1を得る結果となった。
鋭利だったカウンター
リールは4-4-2、ミランは4-2-3-1。後ろの枚数は同じで、両チームともにビルドアップの出口を封じられたため、攻撃のリズムを作れなかった。
ミランはレビッチ(1トップ)とハカン・チャルハノール(トップ下)が相手の2センターバックに当たった。リールはボランチが落ちて数的優位を作ったが、リールのサイドバックと中盤をミランがマンマークで抑えていた。
ミランは右サイドバックのディオゴ・ダロトとセンターバック2人の3枚回しで、リールの2トップに対して数的優位を作った。しかし、リールの2トップはミランの中盤2人へのパスコースを遮断し、サイドハーフがサイドに張るカスティジェホとテオ・エルナンデスを監視。出しどころを消すことで、ミランのビルドアップを封じていた。
イブラヒモビッチがいれば、攻撃の起点を作れたはずだ。サイドに流れたり、中盤に降りてボールを受け、2列目やテオ・エルナンデスの攻め上がる時間を作っていた。
しかし、イブラヒモビッチはいない。タメを作る方法がないミランは速攻に頼ったが、リールの高いDFラインの裏を執拗に突くレビッチのランニングは効果的だった。得点の場面以外にもミランの中盤からは度々スルーパスが供給された。
レビッチが引き下げたことで生まれたDFラインと中盤の間のスペースをミランの2列目の選手が使えれば、チャンスはもっと生まれたかもしれない。引き出しが速攻からの裏抜けしかなかったことは次戦以降の改善点となるだろう。
当然、イブラヒモビッチがいなければ攻撃の形は変わる。フィニッシュにつなげた数で言えば少なかったが、レビッチのスピードを活かす攻撃の形は効果的だった。
ディフェンスの問題
【写真:Getty Images】
リール戦の引き分けは決して悲観すべき結果ではないと思う。チャンスこそ多くなかったが、速攻は機能していた。今後につながるポジティブな勝ち点1と捉えてもいいのではないだろうか。
しかし、ディフェンスは大黒柱が不在の攻撃陣以上に問題を抱えているように見えた。ミランは公式戦での連続失点を5試合に伸ばした。失点シーンは様々だが、ミドルレンジから打たれたシュートの多さは気になる。
データサイト『Whoscored.com』の集計を見ると、この試合で打たれた13本のシュートのうち、9本がペナルティエリアの外からだった。前回対戦ではシュート14本のうち8本が外から。自陣に押し込まれたときにDFラインが下がってしまい、ミドルレンジから容易に狙われてしまう。GKがジャンルイジ・ドンナルンマでなければ、もっと深刻な問題になっているだろう。
ダロトは同じミスを繰り返している。リールはデイヴィッドのポストプレーから、落としたボールにバンバが右足を振り抜いてゴールを決めた。前回対戦の2点目のシーンでも寄せられず、ヤズジュにミドルシュートから決められている。
ダロトだけの問題ではないが、守備の寄せが甘かったのがミドルシュートを打たれる原因だった。セリエAでは首位にいるミランだが、10年ぶりの優勝にはディフェンスの整備が必要になるだろう。
ミランの今年のクリスマスプレゼントはイブラヒモビッチの復帰になるだろう。ELでは3位に1ポイント差のグループステージを突破し、セリエAでも首位を守った状態でイブラヒモビッチを迎えるのが理想だ。
(文:加藤健一)
【了】