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厄介者ウディネーゼはやはり…
ミランはウディネーゼとここ最近ずっと拮抗したゲームを繰り広げていた。昨季は開幕戦で激突し、ロドリゴ・ベカンの一発に撃沈。第20節では3-2で勝利したが、後半アディショナルタイムに決勝点が生まれるギリギリでの白星だった。ミランからすると、ウディネーゼは非常に厄介な存在なのだ。
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そして、迎えた2020/21シーズンのセリエA第6節、ウディネーゼ戦。無傷でリーグ戦を駆け抜けてきたミランは、ここでもウディネのチームに苦戦を強いられることになった。
立ち上がりからボールを支配したミランは、18分に先制。ペナルティーエリア内でズラタン・イブラヒモビッチが巧みにボールキープすると、後方から上がってきたフランク・ケシエへパス。これをダイレクトで押し込んだ。
幸先よく1点リードを奪うことに成功したミランだが、その後はウディネーゼと一進一退の攻防を繰り広げた。4-3-3でこの試合に挑んだホームチームの狙いは守備時5-4-1ブロックを組み、攻撃に転じれば快速自慢のジェラール・デウロフェウとオフ・ザ・ボールの動きに定評のあるイグナシオ・プッセットの両サイドを上手く使い、少ない人数で押し込む。ミランは何度かそうしたカウンターからピンチを招いていた。
前半を1-0で終えることができたミランだが、後半開始早々に失点。アレッシオ・ロマニョーリがペナルティーエリア内で相手を倒し与えたPKをロドリゴ・デ・パウルに冷静に沈められた。
ミランは連戦の疲労からか、この日は動きが悪く、らしくないパスミスやロストが目立った。同点に追いついたことで流れは少しウディネーゼに傾いており、なかなか厳しい状況に追い込まれていたのだ。
ステファノ・ピオーリ監督は選手交代でリズムを変えようと試みた。それが功を奏し、ミランは徐々にペースを取り戻すことに成功している。しかし、今季わずか1勝と苦しむウディネーゼも粘る。やはり彼らは厄介な存在だった。
若手の成長
それでも、今のミランにはこの男がいる。ズラタン・イブラヒモビッチだ。
83分、アンテ・レビッチがクロスを上げると、ゴール前で相手DFに当たったボールが高く跳ね上がる。これに反応したイブラヒモビッチがオーバーヘッド。シュートはゴールネットを揺らし、ミランが勝ち越しに成功した。この日はなかなか持ち味を発揮できない時間帯もあったが、最後に勝負を決めるあたりはさすがである。
「ゴールの瞬間はボールの軌道を見て入るのを待っていたんだ。だからチームメイトと一緒に祝うことができた」とイブラヒモビッチは得点シーンを振り返った。これでリーグ戦では4試合で7得点。39歳にして、セリエA得点ランキングのトップに立っている。凄いとしか言いようがない。
黄金期が去り、ミランは暗闇の中にいた。とくにピッチ内の問題となっていたのは、“ストライカー”である。フィリッポ・インザーギがユニフォームを脱ぎ、その後フェルナンド・トーレスやゴンサロ・イグアイン、クシシュトフ・ピョンテクらが背番号9を身に着けたが、結果的にどの選手も不発だった。
そこへイブラヒモビッチがやって来た。ただ、当初は年齢的な不安もあり、一人でどうこうできる問題ではないという声も多数。イブラヒモビッチという男は魅力だが、同選手が勝ち点をもたらすことができる存在か、ということに関しては半信半疑だった。
しかし、結果は現在の通りだ。イブラヒモビッチは勝ち点をもたらすどころか、ミランというチームそのものを変えた。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドにはない、スウェーデンの王しか持っていない特別な能力でだ。
システムや戦術的な部分も大きく変化したが、何よりも進化したのがイブラヒモビッチ以外の選手たちである。
ミランは良くも悪くも若さが売りだった。勢いに乗って勝ち点を奪い続けることもあれば、崩れる時は一気に崩れて勝ち点を落とす。昨季まではこうした若ゆえの波の激しさが、ミランと言うチームの特徴でもあった。
しかし、イブラヒモビッチがその波を安定させたと言える。背番号11は他の選手がピッチ内で悪いプレーをすれば手を動かし容赦なく指示しているし、良いプレーをすればその選手の方を向いて拍手を送る。プレー一つひとつに対し、しっかりとリアクションを取っているのだ。細かい部分ではあるが、これまでそのようなことをピッチ上で表現できる選手は、若手主体のミランに不在だった。
つまり、イブラヒモビッチは「俺様キャラ」だが、ピッチ内では誰よりも他の選手のことを意識している。試合後の「彼らがプレッシャーや責任を感じる必要はない。それは俺が背負うものだからだ。彼らは自分を信じてひたすら懸命に動き続ければいい」というコメントからも若手に対する意識は明らかだ。また、結果を求めながらも、ベテランの自分が果たすべき役割も見失っていないのが、イブラヒモビッチという男の偉大さを物語っている。
快進撃は続くか
イブラヒモビッチが中心となり、先述した通り若手が着実に成長している今のミランは強い。疲労の影響が出た中でも勝ち切ったウディネーゼ戦はまさに成長の証で、昨季までであればこうした試合を落としかねなかった。
今後もヨーロッパリーグ(EL)を戦う中で過密日程は続く。イブラヒモビッチがいつどこで、どれほどの怪我を負うかはわからない。もし元スウェーデン代表FWが長期離脱を強いられた場合、ミランは再び迷路に入ってしまうかもしれない。一人の影響力が大きい分、その一人を失った時の影響も大きいのが、今のミランの良さでもあり、脆さであると考えてもいい。
ただ、イブラヒモビッチがピッチに立ち続ける状態を長く維持できれば、ミランの快進撃は止まらないかもしれない。今季のイブラヒモビッチは、そう感じさせてくれるほどのパフォーマンスと結果を残している。
「俺はまだウォーミングアップ中。ミランに戻ってきた選手は失敗すると言われていた。今回は何が違うのかと聞かれ、俺は自分の情熱を失ったことが一度もないと答えた」。
「俺たちは良い結果を残しているが、まだ何も成し遂げてはいない」。
「ウォーミングアップ中」、「まだ何も成し遂げてはいない」という言葉からも、イブラヒモビッチにはさらに大きな期待を持てそうだ。昨季途中、イブラヒモビッチは「俺が最初からいればミランは優勝できた」とコメントしたが、ひょっとするとその言葉、今季実現してしまうかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】