知将・渡邉晋が明かす勝利へのシナリオ
監督によってはサプライズ的な選手をベンチに入れて、勝負師のような采配をすることもあると思いますが、18人のベンチメンバーに、その一戦に向かうためだけのサプライズ的な選考を交ぜるのは、なかなか難しいと私は感じています。入れることができても1人でしょうか。
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そしてその1人をどう起用するかで、大きく流れを変えたり、スタジアムの盛り上がりを増幅させたりする、ということを私も実際にやったことはあります。ただし、現実問題として、18人の選考の時点で様々なプラン、ストーリーがあるわけで、それを考えると、なかなかそこまで考慮するのは難しいというのが正直なところです。
ゲームプランの作り方ですが、私の場合は、最初に一番良いストーリーを一つ描きます。先制ができて、追加点も取れた。あとは逃げ切りましょう、というストーリーをまず考える。そのときの点差にもよりますが、逃げ切りを考えると、最終的には守備をどうやって固めるかになります。
そのために、システム変更が必要か、守備の強度をどれくらい保てるか、といったことも考えながら、ストーリーが一つできあがります。これは最も理想的な、勝利の方程式と言ってもいいでしょう。
では、良いストーリーにならなかった場合はどうか。試合をひっくり返さなければいけない状況になれば、より攻撃的に行くことを考えたときに、対戦相手も踏まえ、どういう並びに変えるのか。お互いに拮抗していたら、システムを変えて打開するのか、人を変えて打開するのか。その選択について、それぞれの流れを想定しておく、というのが大まかな考え方です。
スコア別に考えれば、リード状況、同点状況、ビハインド状況で、プランは3つです。それを細分化していくと、×2、×3と増える。あとは先述のサプライズ枠のように、たとえば怪我で長期離脱していた選手が、今回ようやくベンチに戻って来られる。それならば、17人でゲームプランを賄えそうだから、18人目はその選手を入れて「この選手がホームゲームに帰ってきたよ」というものを見せるタイミングが、もしかしたら作れるかもしれない。そういうストーリー性というか、サポーターが喜ぶような要素も入れることができればベストです。ただし、余裕がないときもあります。いや、余裕がないときのほうが多いかもしれません。
ベンチ入りメンバーで駆け引き!?
あとは相手ベンチとの駆け引きです。2019/20シーズンのプレミアリーグでは、コロナ禍による中断明けの第30節エヴァートン戦で、規定によりベンチ枠が7人から9人に増えたこともあり、リヴァプールはコンディション不良で出場不可能と見られていたモハメド・サラーを、メンバーリストに加えました。結局、サラーは起用されなかったのですが、おそらく相手ベンチとの駆け引きがあったのではないかと推測します。
たとえば、ベンチに入れるFWの残り1枚を、この選手とこの選手、どちらにしようかと悩んだとき、相手チームに「あの選手がベンチにいるのは嫌だな」と思わせる選手を入れるという判断は十二分に考えられるし、私も実際に行ったことはあります。さすがにまったくプレーできないコンディションだったらベンチ入りさせませんが、そういった駆け引きも大事な要素です。
(文:渡邉晋)
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