プレミア唯一の開幕から全勝のクラブに
アストン・ヴィラの勢いが止まらない。
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王者リバプールを7-2という衝撃のスコアで下した国際Aマッチウィーク直前までの好調を維持し、またも勝利を重ねた。
現地18日に行われたプレミアリーグ第5節でレスター・シティを破り、1試合未消化ながら開幕4連勝を飾った。欧州5大リーグで開幕から全勝のクラブは、すでにアストン・ヴィラとセリエAのミランしか残っていない。
開幕4連勝もアストン・ヴィラにとっては1930/31シーズン以来、90年ぶりの快挙だという。昨季は17位でギリギリ残留だったことも考えれば、驚くべき進歩だ。
レスター戦は終盤まで拮抗した展開が続いた。互いにチャンスはそれほど多くなく、引き分けで終わるかに思われたところ、後半アディショナルタイムにロス・バークリーのミドルシュートがゴールネットに突き刺さって決勝点になった。
おそらくこの勢いは一時的なものではない。昨季終盤から6勝2分で8試合負けなし、夏の移籍市場で必要な選手をピンポイントに獲得、最も失ってはいけない選手の慰留にも成功と、クラブの計画が軌道に乗りつつあるのは確かだ。
主力の大半がイギリス人選手で占められていることにも非常に好感が持てる。メンバーの固定化も進みつつあるが、レスター戦のスタメンを見ると11人中8人がイギリス人だった。
世界中から優秀な選手が集まって極端なまでに国際化が進むプレミアリーグにおいて、イギリス人選手をチームの軸にできているアストン・ヴィラは特殊な存在とも言える。しかも、多くがエリート街道から少し外れたキャリアを歩んできた、いわゆる苦労人たちである。
例えば今季クラブ史上最高額の移籍金2800万ポンド(約39億円)で獲得したFWオリー・ワトキンスは、エクセター・シティFCの下部組織出身で、4部リーグに所属する同クラブのトップチームからプロキャリアを歩み始めた。
一歩ずつ着実にステップアップし、昨季はブレントフォードで25得点を挙げてイングランド2部のリーグ年間MVPを受賞。そして恩師ディーン・スミス監督が率いるアストン・ヴィラへ移籍し、リバプール戦でプレミアリーグで初めてのハットトリックを達成した。
叩き上げのイギリス人軍団
他にもセンターバックのエズリ・コンサはチャールトン出身、今季新加入で右サイドバックに定着したマッティ・キャッシュはノッティンガム・フォレスト出身。イングランド代表まで上り詰めたDFタイロン・ミングスはブリストル・ローバーズの下部組織で育ち、7部や6部リーグを経てプロになった。
ビッグクラブの下部組織で英才教育を受けた選手は、エバートン出身のロス・バークリーや、マンチェスター・シティが買い戻し権を持つドグラス・ルイスくらい。叩き上げのイギリス人選手たちが献身的にチームのために汗をかくサッカーで、アストン・ヴィラは勝ちを重ねている。
チームの主役は、やはりジャック・グリーリッシュだろう。下部組織出身のキャプテンは引く手数多な状況下で全ての誘いを断り、2025年夏までの契約延長にサインした。かつては素行の問題などを指摘されることもあったが、“ヴィラ愛”は強く、崩しの鍵を握る存在へと成長を遂げた。
グリーリッシュは昨季、プレミアリーグで「167回」という驚異の被ファウル数を記録した。これはプレミアリーグ歴代最多の数字だ。キャプテンがドリブルで仕掛けてファウルを受け、ペナルティエリア手前で獲得したセットプレーをチャンスにつなげるのはアストン・ヴィラの十八番となりつつある。
今季は左ウィングとして起用され、ゴール方向にカットインしていく貪欲な姿勢がチームのパフォーマンスに好影響を与えている。細かく柔らかいタッチでボールを足もとに収め、簡単には失わないのもグリーリッシュの魅力だ。
しかし、スミス監督が志向するプレースタイルやクラブの哲学を真の意味で象徴する選手は、グリーリッシュではない。一見地味で目立たないが、スコットランド代表のMFジョン・マッギンこそ、今のアストン・ヴィラの快進撃を引っ張る選手なのではないだろうか。
一風変わったセントラルMFが輝く
マッギンはセントラルMFとしてプレーしているにもかかわらず、1試合90分あたりのボールタッチ数やパス本数が非常に少ない。サッカーに関する様々なスタッツが蓄積されている『sofascore』を参考に見てみよう。
すると昨季は90分あたりの平均タッチ数が「45.2回」、平均パス成功数は「20.8本」だった。パス成功率は「81%」と高いので、「約21本しか成功していない」というイメージにはなりにくい。一方でドリブル成功数の90分平均が「1.9回」、ドリブル成功率「74%」という数字はセントラルMFとしては高めだった。
比較のために直近で対戦したレスターのベルギー代表MFユーリ・ティーレマンスが残した昨季のスタッツを見ると、90分あたりの平均タッチ数は「62.3回」、平均パス成功数は「39.9本」、パス成功率「83%」、平均ドリブル成功数「0.8回」、ドリブル成功率「60%」となっている。
特徴がそれぞれ違うことは考慮しなければならないが、マッギンのプレースタイルが変則的なことはわかるだろう。ボールのないところでも出し惜しみせず、周りの選手のためにスペースを作り、少ないタッチで決定的な仕事をする。オフ・ザ・ボールの動きに長けるプレーぶりが目の肥えたファンに高く評価され、2部から1部に昇格した一昨季、アストン・ヴィラ加入1年目でファン選出のクラブ年間MVPに輝いたこともある。
味方のために献身的に走り回り、イエローカードを恐れず体を張った守備もするのに、あまりボールには触らない。この一風変わったセントラルMFが、今季はより決定的な存在となってチームに貢献している。ここまでプレミアリーグ4試合全てにフル出場し、1得点4アシストという見事な数字を残しているのだ。フラム戦の1アシストを皮切りに、前節リバプール戦で1得点1アシスト、そしてレスター戦でもバークリーにラストパスを供給して1アシストを記録した。
0-0で迎えた91分、左ウィングのような位置で前向きにボールを持ったマッギンは、相手ディフェンスを2人引きつけながらゆっくりと時間を作り、右側に駆け上がってきたフリーのバークリーの優しいパスを渡した。そしてチェルシーからレンタル加入のイングランド代表MFが右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。
個の特徴とチームスタイルが完璧に合致
現時点でマッギンの4アシストは、トッテナムのハリー・ケインの(驚くべき)7アシストに次いでリーグ2位だ。また、キーパス数では「3.8回」を記録しているグリーリッシュが、マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネに次ぐ2位に入っている。
1試合あたりのインターセプト数のスタッツを見ると、右サイドバックのキャッシュが記録している「3.3回」は、「3.4回」で1位のチェルシーMFエンゴロ・カンテに肉薄している。
このように個人スタッツでもリーグ内で優秀な順位につけている選手が多く、チームの原動力につながっている。既存の選手たちと、スタイルに合致した新戦力の融合が進んでいるのは間違いない。
ただ横パスをつなぐのではなく、周りの選手を追い越しながら効率よくどんどん前にパスを通し、人数をかけてサイドのコンビネーションから崩してフィニッシュに持ち込む。積極的にシュートを放ち、ボールを失えばしっかりと全員が自陣まで戻ってサボらず守備をする。スミス監督の理念は確実にチームに浸透している。
アストン・ヴィラは近年、プレミアリーグと2部のチャンピオンシップを行ったり来たりしている。かつては前身のフットボールリーグ時代に7度のリーグ優勝を誇り、1981/82シーズンにはUEFAチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)を制して欧州の頂点にも立ったことがあるが、それ以降は全くタイトルに縁のないクラブになってしまった。
開幕から全勝の勢いはどこまで続くだろうか。おそらく強さは本物だが、選手層や総合力で上回るビッグクラブにどこまで太刀打ちできるのだろうか。フロントは潤沢な資金を強化のために投資しており、復権への本気度は非常に高い。イギリスのウィリアム王子も大ファンの古豪復活から目が離せない。
(文:舩木渉)
【了】