『フットボール批評』執筆後に逝去
スティーヴとは日韓W杯の後にベルカンプの記事を執筆してくれる記者を探していた時に、知り合いを通じて紹介してもらったのが最初でした。彼は面倒見が良く親分肌で、僕みたいな一介の日本人記者でもすごくやさしく気を遣ってくれました。記者やクラブからも人望の厚い人物で、仕事に対してもとにかく熱心に取り組む人でした。
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スティーヴは、ヴェンゲルがプライベートの携帯番号を教えていた数少ない記者の一人で、フットボール批評のアーセナル特集号ではヴェンゲルのインタビューを全力でトライしてくれました。
残念ながらコロナが猛威を振るう時期でもリモートでのミーティングなどが詰まっているとのことで丁重にお断りをいただいてしまいましたが、代わりにスティーヴは長年にわたりアーセナルを取材した素材を元に原稿を執筆してくれました。それが、「ヴェンゲルの22年は「うぶ」だったのか」というわけです。
これは後から聞いた話なのですが、スティーヴはブルース・リオクの後任としてヴェンゲルがアーセナルの監督に就任する最有力候補で話を進めているという情報を最初に掴んだ記者でもあったそうです。当時はジョージ・グラハム監督が手堅く勝つサッカーをしていた時代の後だったので、攻撃的なサッカー哲学を持った指揮官を迎えたいというのがクラブの本音でした。イギリス国内ではヨハン・クライフを連れてくるのではないかという噂もあったとか。
その中で、スティーヴだけはクラブとの強いパイプと信頼関係もあって、日本にいるフランス人のアルセーヌ・ヴェンゲルというイギリスでは無名の人間を抜擢するとの情報を真っ先に得ていたんです。
原稿(フットボール批評issue29「ヴェンゲルの22年はうぶだったのか」)の初めに、就任時にヴェンゲルがホテルでチェックインしているくだりがありましたが、実際にスティーヴはヴェンゲルがいたホテルのロビーに一緒にいたのです。想像で書いているわけではなく、スクープ命というのを大切にしていて、人脈やパイプを使って情報を察知し実際に見たことを書いてくれているんです。
アーセナルの全てを知る男のメッセージ
今回、スティーヴの原稿を翻訳して感じたのですが、スティーヴが日本のグーナーに向けて伝えたかったのはヴェンゲル時代のアーセナルはスタイルを重視する見方があり、結果や守備に関しては悪くても目をつぶるというイメージを持っている人が一般的なサッカーファンにもいたと思います。
ただ、ヴェンゲルという監督は決してそんな監督じゃない。彼の中では、守備をおろそかになどはしていなく、内容がよければ試合に勝てなくても納得できるような監督ではなかった。ヴェンゲルはあくまでも勝者だった。いわゆる見た目は良いんだけど、骨がない。そういう見方をされるアーセナル像について、そうではないんだよ、というのをスティーヴは伝えたかったのだと思います。
最後に、フットボール批評がスティーヴの最後の原稿ということで悲しい理由になってしまったのですが、彼にとって特別な存在であり、記者としても一際の情熱を傾ける対象だったヴェンゲルのアーセナルの原稿を翻訳という形で担当できたのは光栄でしたし、改めて“ありがとうございました”とその一言です。
(語り=山中忍、取材:文=小室聡)
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【了】