ヴェンゲルが明かしたポリシー
一方、ヴェンゲル自身が「無形のトロフィー」と呼んだチャンピオンズリーグ出場権は手にし続けたものの、物理的に無冠のシーズンが続くことになった2014年までの9年間には、ビッグネームに手を出そうとしないアーセナルの補強スタンスが、4位で満足してしまっている証拠だとして叩かれるようになっていった。
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それでも、基本的な補強ポリシーを曲げようとはしなかった。2013年に、ドイツ人選手としては史上最高の4250万ポンド(約57億円強)で、メスト・エジルを獲得してはいるが、大物獲得路線に切り替えたわけではない。その2年後、33歳だったペトル・チェフを新GKに迎えた他は、即戦力補強がなかった2015/16シーズンにも、補強姿勢を疑問視するメディアの前で次のように説いている。
「補強の有無は、チームを強化できる獲得候補の有無によって決まる。求めるレベルは、持ち駒に故障者がいるからといって変わりはしない。補強なしに終われば、それは相応しい獲得候補が見つからなかっただけのことだ。これまで、300件を超える選手の売買を行ってきたが、そのすべてに決断を要した。補強は、ファンに希望を与えるために行うものではない。チームを強くするために行うものだ。その手段が、移籍市場での売買に限られているわけでもない。手元の選手への信頼を貫くことも一つの方法だ。
まだ若いニコラ(・アネルカ)を起用すると、完成品を買えばいいのにと言われたものだ。ティエリ(・アンリ)に関しても、初めのうちは同じようなことを言われた。私は、『決めてくれると信じて起用しようじゃないか』と答えてきた。サッカーとは、そういうもの。科学的な理論をマスターすれば、誰が何点取ると完全に把握できるような代物ではない」。
アーセナルが手にした真のトップクラス
ヴェンゲルは、移籍金の高さではなく、潜在能力の高さを信じた。移籍市場に巨額を投じるよりも、辛抱強い起用で自信を与えることを好んだ。長いスパンで眺めれば、アーセナルは国際的なビッグネーム獲得例こそ乏しくても、真のトップクラス獲得例には事欠かない。
攻撃陣では、ティエリ・アンリ、ロベール・ピレス、ロビン・ファン・ペルシー、シルヴァン・ヴィルトール、ヌワンコ・カヌ、守備陣でも、ソル・キャンベル、ローレン、ジウベルト・シウヴァ、バカリ・サニャといった名前が、ほんの一例としてすぐに浮かぶ。
アーセナルで初のフルシーズンとなった1997/98シーズンに、7年ぶりのリーグ優勝と5年ぶりのFAカップ優勝を実現したことにより、新監督が自分の方針に沿って仕事を進めやすくなったことは間違いない。ヴェンゲル自身が、「“ダブル”を達成したことで、私を見る世間の目も変わった」と言えば、新監督としてフランス人に目をつけたデイン元副会長も、「クラブの全員が、アルセーヌの望むサッカーのスタイル、そして、チームの補強方針に完璧な信頼を置くようになっていた」と語っている。
(文:スティーヴ・スタマーズ)
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