期待値「大」のチェルシーの初陣
今夏の移籍市場を最も盛り上げているのはチェルシーと言えるだろう。補強禁止処分によって過去2回のマーケットでほとんど支出がなかった一方、エデン・アザールやアルバロ・モラタの移籍金で“儲けた”同クラブは、その豊富な資金を思う存分費やしている。
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これまでにハキム・ツィエク、ティモ・ヴェルナー、ベン・チルウェル、カイ・ハフェルツ、チアゴ・シウバ、マラング・サールを獲得。これだけでも十分だが、チェルシーはさらにGKエドゥアール・メンディの獲得にも動いているとされる。引き続き、移籍市場の主役となりそうだ。
これだけの大型補強を行っているので、当然ながら新シーズンにおける期待値は高くなる。ネームバリューだけを考えれば、プレミアリーグ制覇も夢ではないだろう。もちろん、そう簡単にいかないことは重々承知だが、彼らがそれだけ注目されているのは紛れもない事実だ。
そのチェルシーは現地時間14日、プレミアリーグ第1節でブライトンと対戦。敵地で2020/21シーズンの幕を開けた。
ツィエクやチルウェルを負傷の影響で起用できず、新加入選手の中でスタメンに名を連ねたのはヴェルナーとハフェルツのみ。セサル・アスピリクエタも先発を外れ、右サイドバックには若いリース・ジェームズが入った。
試合はチェルシーがボールを保持する展開になるかと思われたが、真逆だった。ブライトンは強敵相手にも引くことなく、GKマシュー・ライアン含め全員でしっかりとビルドアップ。左サイドのソロモン・マーチらに高い位置を取らせ、ボールを動かしながら着実にチェルシーを押し込んだ。
フランク・ランパード監督率いるチームは、なかなかボールの奪いどころを定められず。突破力のあるタリク・ランプティに何度か左サイドを脅かされるなど、流れをポジティブな方向に持ち込むことが難しくなっていた。
ヴェルナーの走力が活きるカウンターは確かに怖かったが、守備時に5バックを敷くブライトンに対し繋ぎの部分で良さは出ず。ハフェルツは周りとの連係が不十分であり、ルベン・ロフタス=チークは早い時間から消えてしまった。ペースは、完全にブライトンが握っていたのである。
内容面には不安も…
ただ、少しラッキーな形でチェルシーが先制点を奪う。23分、スティーブン・アルゼートが自陣深い位置でパスミス。これを拾ったジョルジーニョがヴェルナーにパスを送り、ドリブルで仕掛けたところをたまらずGKライアンがファウル。これで得たPKをジョルジーニョが冷静に沈めた。
流れが完全にブライトンへ傾いていた中での先制弾。チェルシーにとってはこれ以上ない大きな1点だった。
しかし、リードしたことで試合のペースを握るかと思ったが、そうではなかった。引き続きボールを支配したのはブライトン。チェルシーは思ったようにギアが上がらず、自陣でのプレーを強いられたのだ。
後半も、チェルシーはその流れを変えることはできなかった。そして、54分に失点。レアンドロ・トロサールにミドルシュートを突き刺された。
少し歯がゆい時間を過ごしたチェルシーは、失点からわずか2分後にR・ジェームズが強烈なミドルシュートを決めて勝ち越し。その10分後にはコーナーキックから最後はクルト・ズマが決めてリードを2点に広げることに成功した。
その後はお互いにゴールネットを揺らすことができず、試合は1-3のまま終了。チェルシーが開幕白星スタートを切った。
1点目は相手のミスがキッカケとなっており、2点目はR・ジェームズのゴラッソ、3点目はセットプレー。この日のチェルシーに、流れの中からの得点の匂いを感じたのは1、2回あったかどうかだった。先述した通りハフェルツは馴染めておらず、ロフタス=チークは存在感が薄く、ボールの動きがスムーズとは言い難かった。
守備もプレスがなかなかハマらず、ズルズルとラインを下げた。もちろんブライトンの意識も非常に高かったが、13本ものシュートを浴びたのはやはり気になる。内容に不安を残したのは事実だ。
ただ、今は結果が最も大事である。そういった意味では、チェルシーにとって開幕戦は申し分ないものとなっただろう。試合後、ランパード監督も「まだ理想には程遠いし、時間がかかるだろう。ただ、開幕戦ではとにかく勝つことが大事であり、ブライトン相手によく戦ったと言えるだろう」とコメントしている。
ヴェルナーの躍動
さて、ここからは個人パフォーマンスに目を向けたい。この日、最も輝きを放っていたのは、新エースのティモ・ヴェルナーだと言えるだろう。
RBライプツィヒで得点を量産したドイツ人ストライカーは、チャンピオンズリーグ(CL)という大舞台への出場を捨ててまでチェルシーに合流。早く新たな環境に慣れたいという、点取り屋としての高い意識の表れだった。
その判断がやはり良かったのか、コンディションが明らかに良く、ブライトン戦では何度も脅威となっていた。
ヴェルナーの最大の武器はご存じの通りスピードにある。RBライプツィヒ在籍時もそうだったが、とくにカウンター時の鋭さはワールドクラス。あっという間にゴール前へ運んでしまうという怖さが備わっている。
また、自慢の走力を活かしたオフザボールの動きも秀逸。ブライトン戦でも何度か効果的なランニングをみせた。
最も印象的だったのは3分の場面だ。右サイドにボールがある際、ヴェルナーは左サイドから斜めへの走りをみせ、最後はタイミングを見計らってスピードを落とさぬまま縦へ抜け出した。
このシーンには、ヴェルナーの良さがほとんど詰まっている。
まず、右サイドにボールがある際、ヴェルナーは左サイドにいたということ。決して真ん中に留まるだけでなく、右にも左にも柔軟に顔を出せるのが、ドイツ人FWの特徴でもある。
ブライトン戦では、このシーン以外にも何度かうまくサイドに流れて起点を作っている。その動きがあることで周りの選手も頻繁にポジションを変えるため、必然的に前線は流動的になる。これまでオリビエ・ジルーやタミー・エイブラハムなど、中央でより強みを出せる選手が最前線にいたチェルシーにとって、ヴェルナーという存在はチームにまた違ったスパイスを加えられるのだ。
そしてもう一つの良さは、トップスピードにギアを入れるまでの速さだ。3分の場面では斜めへの長い距離の走りを取り入れることでぐんぐん加速し、最後は勢いを落とさぬまま縦へ突破。最初から速いので、DFは置き去りにされたままだった。
また、24分の場面でもハフェルツがボールを持つと、ヴェルナーはすぐにギアを上げ相手の背後を突いた。このようにパスが出てから加速するのではなく、パスが出る前にトップスピードに持ち込められるのが、ヴェルナーという男の怖さである。
まだ味方との呼吸が合わず、ヴェルナーが速すぎてオフサイドにかかったり、良いタイミングでパスが来ないと言った場面はブライトン戦でも何度かあった。ただ、ここが合ってくれば、破壊力は格段に増すこと間違いなし。ヴェルナーはチェルシーにとっての希望となるはずだ。
(文:小澤祐作)
【了】